も始めたまえ。早くキンメル提督《ていとく》に命令したがいいじゃないか」
「キンメル提督? ああ神よ、彼の上に冥福《めいふく》あれ。おい、ヤーネル提督、砲撃方《ほうげきかた》始め」
「オーケー、フランキー」
と、そこで両洋聯合艦隊司令官ヤーネル提督は、電話機をとって、砲撃命令を下したのであった。
戦艦マサチュセッツとインディアナの四十センチの巨砲、併《あわ》せて二十門は、ぎりぎりと仰角《ぎょうかく》をあげ、ぐるっと砲門の向きをかえたかと思うと、はるか五千メートルの沖にじっと静止している驚異軍艦ホノルル号の舷側《げんそく》に照準《しょうじゅん》を定《さだ》めた。
「照準よろしい」
報告が、ヤーネルの耳に届く。
「うん。撃て!」
提督は耳をおさえて云った。
轟然《ごうぜん》と砲門は黒煙《こくえん》をぱっと吹き出して震動《しんどう》した。甲板《かんぱん》も艦橋も、壊《こわ》されそうに鳴り響き、そしてぐらりと傾斜《けいしゃ》した。
「命中、五発!」
驚異軍艦のまわりには十五本の水柱《すいちゅう》が立った。のこりの五発は、たしかに命中したとある。しかし驚異軍艦は、かすかに檣《マスト》をゆるがしているだけで、穴一つ明かないばかりか、砲弾の炸裂《さくれつ》した様子もない。
「おい、本当か、五発命中というのは」
大統領が、狐《きつね》にばかされたような顔でヤーネルを睨《にら》みつけた。
「た、たしかに五発命中です。ですが、どうもふしぎですなあ、炸裂しません」
といっているとき、驚異軍艦から左の方へ千メートルばかり放《はな》れたところの海面か、どういうわけか、むくむくと盛りあがってきて、それは恰《あたか》も、小さい爆雷《ばくらい》が海中かなり深いところで爆発したような光景を呈《てい》した。しかもそのむくむくは、勘定《かんじょう》してみると、都合五つあった。
「何だい、あれは」
大統領は怪訝《けげん》な顔。
そこへ、さっきから置き忘れられたような金博士が、小さい身体をちょこちょことのりだしできて、大統領に耳うちをした。
「ええっ、そ、そうか!」
大統領の愕《おどろ》きは一方ではなかった。
「ふーん、命中弾は、たちまち艦内を通り抜けて、艦底から海底へ突入、そこで爆発したのだというのか。こいつは驚異じゃ」
「何ですって?」
と、ヤーネルが大統領の歎声《たんせい》を聞き
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