やすやすと明いたさ。乃公は吸いこまれるように、その室の中へ入ってゆくのだった。
 その部屋は十坪ほどのがらんとした客間だった。真ん中に赤い絨毯《じゅうたん》が敷いてあってね、その上に水色の卓子《テーブル》と椅子とのワン・セットが載っているのだ。卓子の上にはスペイン風のグリーンの花瓶が一つ、そして中にはきまって淡紅色のカーネーションが活《い》けてあった。
 この部屋はたいへん風変りな作りだった。それが乃公の気に入っていたわけだが、奥の方の壁に大きな鏡が嵌《は》めこんであったのだ。それは髪床《かみどこ》の鏡よりももっと大きく、天井から床にまで達する大姿見で、幅も二間ほどあり、その欄間《らんま》には凝《こ》った重い織物で出来ている幅の狭いカーテンが左右に走っていた。カーテンの色は、生憎その鏡のある場所が小暗《こぐら》いためよくは判らなかったが、深い紫のように見えた。もちろんその鏡の上には、こっちの部屋の調度などがそのまま反対に映っていた。乃公は部屋に入ると、第一番につかつかとその鏡の前まで進み、自分の顔をみるのが楽しみだった。鏡の位置が奥まって横向きになっていたため、鏡の前へ立たないと自分の
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