たのだ。つまりお前にピストルで狙わせ、そしてうしろにいる女を射撃させたのだ。どーンと放ったのは、恐らく空砲だったろう、女はかねて手筈《てはず》を決めてあったとおりに、その場にぶったおれる。そして芝居もどきに、卵の殻かなんかにつめてあった紅がらを流して、ピストルに射たれて死んだ様子を想わせたのだ」
――ああ、それでは、なぜ彼は私に、そんなことをさせたんだろう、と乃公は思わず叫んでしまった。
「それは判っている。それは第二の夢の場面にお前をひっぱり出し、そして友人の妻君というのを本当に殺させたかったのだ。精神薄弱者たるお前に、再度おなじ夢を見たと思わせ、前回のとおりの射撃をやらせたのだ。そのときお前がとりだしたピストルはちゃんと実弾が入っていたのだよ。そして二度目の夢の場面には、例の硝子板の向うの部屋は使わなかった。それは向うの部屋を暗室にすることによって、硝子板を鏡と同じ作用をさせたのだ。そんなトリックはよく、博覧会などの見世物で、やってみせるトリックで、誰でも知っている。お前は心にもなく、一人の女を殺してしまったのだ」
――なぜ私は、その女を殺さねばならなかったのですか、と乃公は怒
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