ぱりドーアを見ていった。左側の五つ目のところに、金色のハンドルがついているのを発見した。
「これだな」
 乃公はにやりと笑った。
 ――その金色のハンドルを廻して、室内へ入りこんだ。もちろん部屋の中も、前回等に見たと全く同じことさ。室の中央に赤い絨毯《じゅうたん》が敷いてあるし、その上には瀟洒《しょうしゃ》な水色の卓子《テーブル》と椅子とのセットが載って居り、そのまた卓子の上には、緑色の花活が一つ、そして挿《さ》してある花まで同じ淡紅色のカーネーションだった。
「ふ、ふ、ふ。ふっ。」
 乃公はおかしくなって笑い出したくなるのを、じっと怺《こら》えながら室の中央に進んだ。そこで奥の方を見ると、果して例の大鏡があったのではないか。乃公はすっかり安心して、たいへんに楽な気持になった。
(役者などいう職業も、毎日同じ道具立で、同じことを演《や》るのだから、乃公がいま感じていると同じことに、初日以後は、やるたびに楽になってくるんだろう)
 そんなことを思ったりした。
 ――乃公は例によって、いつの間にか大鏡の前に立っていた。そこに映る自分の姿をみると、例のとおり怒髪《どはつ》天《てん》をつき、髭
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