で天然《てんねん》の万里の長城のようなヒマラヤ山脈を越え、チベットやネパールやブータンの国々の間をぬい、そして一気にアフガニスタン国のカブールという都市まで無着陸の飛行をつづけなければならなかった。これは全航路の中で、一等あぶないところであった。ヤヨイ号は、ついに、この大難所《だいなんしょ》にさしかかった。機の高度は、八千メートルであった。
山脈中の最高峰《さいこうほう》は、八千八百八十三メートルのエベレスト山であって、富士山の二倍半に近い。そのほかにも八千メートルを越える高い峰々がならんでいて、機の高度の方が、むしろ低い。もっと機の高度をあげればよいわけであるが、これ以上あげると、エンジンの馬力《ばりき》がたいへんおちるしんぱいがあった。そして、機内は、寒さのため、のりこんでいる特使団の一行はもちろん、操縦士《そうじゅうし》や機関士などの乗員ですら、非常なくるしさとたたかっているのであった。機の前面には、今にもぶつかりそうな峰々が、一つまた一つ、ヤヨイ号をおどかすようにあらわれる。操縦士は、そのたびに、舵《かじ》をひいて方向をかえ、白雪《しらゆき》をいただいた峰のまわりをぐるっとう
前へ
次へ
全17ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング