して助けなくては……」
 道彦は、明かるくなった機内を見まわしたが、ふしぎにも、博士のほかにはだれもいなかった。
「みんな、どうしたのであろうか」
 彼は、通路をあるいていった。通路の正面の扉《とびら》があいている。そこを入ると、戸口が見える。その戸口《とぐち》もあいていた。そして、あけかかった空を背にして、雪山がひどくかたむいていた戸口までいくと、はっきり事情がわかった。なるほど、ヤヨイ号は、かたい雪の斜面《しゃめん》に、ななめにかしいだまま、腹ばいになっているのであった。左の翼《つばさ》が、根もとから、もぎとられている。機首《きしゅ》は雪の中につっこんでいた。
 道彦はびっくりしたが、しいて気をおちつけ、雪のうえに下りた。すると、機から十メートルばかりへだったところに、テントが、柱《はしら》もしないで、雪のうえにひろげられていた。なにをするために、そんなことをしてあるのかと、彼はその方にあるいていったが、とちゅうで彼は、うむとうなって立ちどまった。それはテントの下から、人間の足が見えたからであった。
 テントをめくって、その下を見る必要はない。道彦は、急に頭が、ふらふらとしてきたが、こんなことで、よわい気を出してはならないと思い、げんこをかためると、われとわがあたまをがーんとなぐりつけた。
(……生き残ったのは、先生と自分だけらしいようだ。いや、先生も、このままにしておけば死んでしまうぞ)
 道彦はしっかりしなくてはならないと、自分の心をはげました。なんとかして、先生をたすけること、それから、この大椿事《だいちんじ》を東京へ知らせること、この二つを早くやらなければ、彼のつとめがすまない。彼は、決心をした。どうやら、ここは、ヒマラヤ山脈の高峰らしいが、どこかに、人間はいないであろうか。登山者がいてくれるといいのだが、あるいは山番でもいい。
 太陽は山のはしからのぼって、雪山一たいをぎらぎらとてりつける。道彦は、かたい雪のうえを、いくたびかすべりそうになって、それでもやっとがけのふちまで、たどりついた。そして、谷の方を、おそるおそる見下ろしたのであった。
 雪のほかに、何一つ見えない大雪谿《だいせっけい》が、はるか下の方へのびている。向いの山も、まっ白であって、山小屋はもちろん、石室《いしむろ》らしいものさえ見えなかった。そうでもあろう。ここはよほどの奥山らしい。

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