な私の世界崩壊説に反対意見を持っている学者たちの無反省な卑怯な行動により、元来が無自覚な享楽児たる民衆が自己催眠術もが手伝ってすっかり欺瞞されおわったのである。そして彼らは大酒に酔いつぶれたように自制を失ってしまい、反対派の学者のふりかざす邪剣のもとに集まり、大河が氾濫して小さな藁屋に襲いかかるがごとく押し寄せてきて、私の名誉を傷つけ、幸福をうばい、あまつさえ彼らの利害には何の関係もないはずの私の片腕を折り、左眼をつぶしてしまったのである。あらゆる新聞紙は「人類の賊」とか、「平和の攪乱者」とか書きたてた。なかには「即刻、彼を絞首台に送れ!」という初号活字の号外さえ発行したところもある。治安警察は私に精神病病院の収容自動車を送り、私刑を行なわんとてひしめく群衆を制するために、その沿道に二個師団の兵士と三千人の警官とを集中したのであった。私が古なじみの雑仕婦の欲心と弱き女性の同情をねらうことを知らなかったなら、穴倉ながら今のようにこうして自由に振舞えるような境遇にはならなかったことだろう。何が彼らをいらだたせたか。もちろんそれは反対派の学者たちの処方箋どおりの筋書が効を奏したのにすぎない。
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