てこの大宇宙を隈なく横断するだけの力があるであろうか。私は途中で通達力が損傷せられる程度のもっとも小さいはずの十六メートル短波長電波を選んだが、四千億光年の大宇宙を渡りえられるものとは考えられない。それからまたたとえ途中の遊星に私の遺言を載せた電波がぶつかったとしてもはたしてその遊星に生きている者が、私たちの思想を理解してくれるであろうか。これらのことをほんとうに考えつめてゆくともう不安でいっぱいになり、遺言放送を決行する勇気がすっかり挫けてしまうのをおぼえるのである。
 それにもかかわらずこの頼りすくない実験、それはまったく[#「まったく」は底本では「まっく」]無限の底ぬけ井戸のなかに矢を放つような無駄な努力かもしれない通信をかくのごとくただいま私がやっているわけは、なにしろ私の寿命がはや十分間のあと(いやそれはもう十分間どころか、ただいまでは九分しか残っていないのだ、噫《ああ》)九分ののちに終ろうとしているし、そのうえとても耐えきれないことは私のすんでいる球形の世界が跡も残らぬように崩壊してしまって、今日《こんにち》まで八十億年かかって作り上げたあらゆる文化、絢爛をきわめたその歴史
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