うなどというといかにも私がすこし気がふれてでもいるように思われることだろうが、私はしごくまじめでこの遺言状を放送しているのである。――遺言状の放送! 私自身すらそれがいかにもとっぴなことのように感じられるが、今のような私の境遇では遺言状を電波に変成して宏大なる空間のあらゆる方向へ発射することがもっとも有効な遺言の方法だと思う。遺言状を紙に書き岩に刻んだとて、その紙や岩をのせた球形の世界自身がいまから十分後には、粉々になってとんでしまうのだということに気がついたならば、いかにそれが無駄なことであるかに思いあたろう。とにかくこのうえは、われらが棲める球形世界以外に遺言の保存かあるいは伝達を計画しなければならない。われらの知力ではとくに短い波長の電磁波のみがこの世界の地上から放射されてこの世界以外の数しれぬ多くの遊星のほうへ向け大宇宙のなかを伝播してゆくことを知っているばかりである。
しかし私の遺言がほかの遊星の生物によく聴きとってもらえるものだかどうだかについてはまだまだ多くの疑問が横たわっているのを感ずるのである。たとえば私に許されたかぎりある通信電力がはたして私の遺言をのせた電波をし
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