みはあまりにひどくはないかと思います。チロリウムは人類に適度に服用せられて不老不死の大目的を達するという証明の出るやいなや人々はあらゆる醜い争闘を演じてこの稀代の霊薬を手に入れようとあせっています。ラジウムよりもいっそうその存在量の少ないチロリウムが、結局人類のすべてへの需要をみたすためには到底あたりまえな分配方法では数人の人類を満足させることもできません。そのためについにここにチロリウムの人造があらゆる研究費を惜しまず試みられました。
 その結果もっとも興味あるチロリウム製造法は、十八の原子酸素をある手段により集めてチロリウム一原子に変成して、多量のチロリウムを造ろうという方法で、それは今日《こんにち》ここにご臨席の方々のうち、数人の方によってだいたい信じられている次第です。
 しかしぜひこのことを行なうまえに一度よく考えてみなければならぬことがあります。それは人間は誰も彼も不老不死で生きのびたいという欲望を起すことは、はたして許し得べきことだろうかということです。そして第二には酸素原子をチロリウム原子に変成する実験ははたして安全に取りはこびうるものであるかという二つの疑問なのであり
前へ 次へ
全19ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング