を思って、機関部までたずねてきたわけだが、いまも聞けば、彼は旗艦へ行って、司令官のところにいるという。朝から何の用事だか知らないが、元気にやっていればなによりのことだった。
大尉の足は、いつしか甲板へ出ていた。
きょうも熱帯の海は、穏やかに凪《な》いでいる。見渡せば、果しのない碧緑の海であった。そして海ばかりであった。ただ前方二百メートルを距てた向こうに、旗艦須磨が黒煙をはきながら白い水泡《みなわ》をたててゆく。
ぽぽーと、汽艇の響が、右舷の下でする。
舷梯下に、汽艇がついたらしい。
大尉が見ていると、舷門についていた番兵が、さっと捧銃《ささげつつ》の敬礼をした。誰か下から上ってきたようである。
はたして長身の士官が上ってきた。川上機関大尉であった。
「おお川上が帰ってきた」
長谷部大尉はそれを見ると、にこりと笑ってその方へ足早に歩いていった。
「おい川上。いま貴様を訪ねていったところだ」
「よお、長谷部か。はっはっはっ、もう酒はないぞ」
「酒はもうのまんことにきめた。おや、貴様は一杯機嫌だな。朝から酒とは、どうも不埒千万、けしからんじゃないか」
「はっはっはっ。ここへも
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