バノフさん。貴下にうちあけたこの飛行島の秘密は、大したお土産でしょう。さあ、今こそ貴下の国は、私の国と手を握るときです。そして日本をおさえつけなければならん」
 そういってリット少将は、ハバノフ氏の耳許に口をもってゆくと、なにか小声でささやいた。それを聞いていたハバノフの顔色が、緊張のために紙のように白くなった。
「おおリット閣下。ここで私の決心もきまりました。スターリン議長にたいし、出来るだけの説明をしましょう」
「いや、ぜひわれわれの軍事同盟をつくりあげねばなりません。ねえ、お互にユダヤ人の血をひいている兄弟ではありませんか。われわれユダヤ人は、ソ連においても、わが大英帝国においても、また米国においても、銀行をひとり占にしている。その大きな金の力によって、政治を動かすこともできるし、新聞や映画などでわれわれの敵をやっつけることもできるし、もちろん軍隊を動かして戦争をさせることもできる。ユダヤ人の国というのはないが、われわれは世界の大国のうしろに隠れていて、それをあやつることができるんだ。一つ握手して、まず第一に東洋においてわれわれに反対する日本をぶっつぶさなければなりません」
 恐るべき反日の言葉が、ユダヤ系の英国人のリット少将の口から洩れた。
「そうです。日本はわれらの国ソ連にとっても大敵です。日本はコミンテルンの敵です。一昨年から、コミンテルンの大会において、日本をぶっつぶすことを決議し、そのために中国をまず赤化してかかろうとしたのです。日本は建国以来二千六百年になり、万世一系の天皇をいただいているので、なかなか亡ぼすのに骨が折れます。それでも数年前までは、われわれの計画がうまくいって、国内には議論がわかれたり、国民がへんな歌をうたったり、妙な服や化粧に夢中になったりして、ぐにゃぐにゃになっていたんだが、近頃になって日中戦争が起ったり、ドイツやイタリヤなどと防共協定を結ぶようになってからは、生れかわったような強い国民になった。だから、私は日本という国は、実に恐しい国だと思う。日本をやっつけるために、われわれはもっともっと空軍を強くし、戦車や潜水艦をうんと造り、また日本国民の心がぐにゃぐにゃになるような宣伝や、それからだらしのない遊びなどを日本に流行らせなければならん――とまあ、そんな風に考えでいるのです」
 ハバノフ氏はそういって、大きな口を結んだ。
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