ですか。貴下が卓子の下から右手に掴んだものは――」
「えっ」極度の狼狽をみせて、提督は態度を一変した。彼の顔は、興奮に燃えている。その右手には、一挺のピストルがしっかと握られ、狙はものの三メートルとはなれていない川上機関大尉につけられ、どどどどーんとつづけざまに数発の銃声!
怪無電
「卑怯者!」
と叫んだのは、川上機関大尉だった。
大喝一声、とびくる銃弾をものともせず、彼はぱっと身をひるがえして、提督の手もとにおどりこんだ。
近距離の射撃が、一向、効を奏さなかったのは、提督があまりに気をあせっていたためであった。
「しまった」
と思ったときは、もうすでに遅かった。ピストルを握っていた提督の右手首は、硬いもので強くたたかれた。
(斬られた?)
と思ったが、違っていた。提督はピストルをぽろりと床に落した。右手はまだちゃんとついていた。だが切れて落ちそうに痛む。左手でそれをおさえて、提督はへたへたと絨毯のうえに膝をついた。
川上機関大尉は、刀の背で峰打をくわせたのだった。
提督は、その次の瞬間、川上のために真向から日本刀でざくりと斬りさげられるだろうと覚悟をして、両眼を閉じた。
だが一向に、太刀風が聞えてこない。提督は不思議に思って、眼を細目にひらいてみた。川上は刀をさげて、じっと立っている。斬りつける構《かまえ》ではない。
「川上機関大尉。貴下はなぜ余を斬らないのか」
川上は叱りつけるように、
「日本人は勝って情を知る。貴下はもう完全に敗けたのだ。ピストルには手が届かない。貴下は無力だ」
「なぜ斬らないのか、余には分からぬ」
「分からないでもよろしい。飛行島は私がもらいました。だが、貴下が呼びだしたはずの無電班長が出てこないのはどうしたわけか」
そういっているとき、扉がどんどんと、破れんばかりに叩かれた。扉の向こうには、大勢の声が喚いている。
「提督、スミス中尉です。今助けますから、頑張ってください」
スミス中尉が、急を知って引返してきたのであった。
そのとき、電話のベルが鳴りだした。
「提督、電話に出て下さい。そしてその電話を、無電機につなぐように命ずるのです」
提督は、川上機関大尉の命令と、今にも破壊しそうな扉の両方に気をとられて、まごまごしている。しかしついに電話に出て、川上のいいつけにより命令を発した。電話は無電機につなが
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