「はい。大変なことになりました。怪漢はやがてこっちへやって来るかもしれません。提督、どうか奥へおはいり下さい」
「うむ、――」と、提督は、後退りしながら、はっとした思いいれで、
「おお、お前は誰か」
「私は――」
「お前は怪我をしているじゃないか。胸のところが、血で真赤だぞ。お前はそれに気がつかんのか。おや、右の腕も――」
「リット提督閣下。御心配くだすって、なんとも恐れいります。が、まあ中へおはいり下さい」
 かの血まみれの下士官は、提督につづいて、ひらりと室内へはいった。そして扉をぴたりと閉めた。そのとき提督は、かの下士官が、なにか棒切のようなものを、後にさげているのを認めた。それは室内にはいって、電灯の光を反射して、きらりと閃いた。
「うむ、お前は――」
 提督は、驚きのあまり、言葉を途中でのんだ。そして顔面蒼白!
 この下士官こそ、誰あろう、われ等が大勇士、川上機関大尉、その人であったのだ。


   巨人対巨人


 リット提督対川上機関大尉!
 巨人と巨人との、息づまるような対面だ。飛行島は、まだ何事も知らず、闇夜の嵐のなかをついて、囂々《ごうごう》と北東へ驀進《ばくしん》しつづけている。
 どうして川上機関大尉がここへ姿を現したか。彼は下甲板の格闘で、強力無双の敵下士官のため、すでに手籠にあおうとしたが、幸いにも伸ばした右手が、甲板に転がっている日本刀にかかったので、苦もなく強敵を斃すことができ、そのまま血刀をひっさげて、リット少将を襲ったのであった。
「うむ、お前は――」
 リット提督は、じわじわと後へ下ってゆく。
「提督、もうどうぞその辺で、お停りください」と、川上機関大尉はどっしりした声に、笑みをふくんでいった。
「うむ、――」
 提督は、もう唸るばかりだ。銀色の頭髪が、かすかに震えている。
「提督。今日までに、よそながらちょくちょくお目にかかりましたが、こうして正式に顔を合わしますのは、只今がはじめてであります。申しおくれましたが、私は大日本帝国海軍軍人、川上機関大尉であります」
「うむ、カワカミ! 貴様は、まだ生きていたのか」
「そうです。生きているカワカミです。こうして親しくお目にかかれることを、永い間待ち望んでいました。私としましては、この上ないよろこびであります」
「もうわかった。そんなことはどうでもよい。わしの室へ、物取のように闖
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