「うっ、亡者ども、わしを海中へひっぱりこもうというのか。なにくそ、ひっぱりこまれてたまるか」
提督は、あぶら汗をかいて、うんうんうなりだした。ひっぱりこまれまいとするが、刻一刻、提督の体は舷を超えて海面へ落ちようとする。恐しい執念だ。――
「リット提督!」
提督の耳に、はげしく扉を叩く音が聞えた。
「ううーん、ううーん」
「提督、どうされました。スミス中尉です」
「なに、スミス中尉。お前もか」
と叫んだが、途端に提督は夢からはっと覚めた。彼はベッドの中で、自分で自分の喉をしめていたのだ。
「ああ夢だったか。恐しい夢もあったものだ。ああ、夢でよかった」
提督は、全身汗びっしょりだった。
つづいてはげしいノックの音!
「提督、ど、どうされました。スミス中尉です。早くここを開けて下さい」
「おお」提督はほっと大きな息をついて、ベッドからよろよろと下り、「スミス中尉か。いま開けてやる」
扉を開けると、外は真暗で、嵐を呼ぶ物凄い潮風が、ひゆうひゅうと鳴っていた。そして、きりっとした武装に身をかためたスミス中尉が、片手には手提《てさげ》電灯を、また片手にはピストルを握り、一隊の水兵をひきつれて立っていた。
非常呼集
「おお、スミス中尉か。よく来てくれた。しかし夜中、一たいこれは何ごとか」
リット提督は、心に覚《おぼえ》のある悪夢に虐《しいた》げられ、まだ幾分の弱気で中尉にすがりつかんばかりだった。
「ああ提督閣下」とスミス中尉は、まじまじと正面から顔うちながめ、
「御病気ではなかったのですね。それはよかった」
「うん、――」
「提督閣下。哨戒艦から、しきりに信号があります。どうもわが飛行島大戦隊を外部から窺っているものがある様子です」
「なに、外部から窺っているものがあるというのか。また日本の潜水艦か」
「いや、それはまだはっきり分かっていません。とにかく、わが戦隊は目下極秘航行中でありますので、無電を発することを禁じてありますため、信号がなかなかそう早くは取れないのであります。無電を出すことをお許しになりませんと、わが大戦隊はいざというときに、大混乱をおこすおそれがあります」
「いや、無電を出すことを許せば、わが飛行島大戦隊の在所《ありか》を、敵に知らせるようなものじゃ。そいつは絶対に許すことができぬ」
リット提督はこのへんで、やっとふだんの提
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