、実はこれにも神明の加護があったのである。それは川上がブルー・チャイナ号に乗船したときのことだった。彼は飛行島に潜入したときに近づきになった比島の志士カナモナ氏が数本の日本刀を持っているのを見て、無理にねだって、二本を譲りうけたものであった。それは二人の勇士にとって、この上もなき利器であった。
「はっ、では杉田は、ここで部署を守っております」
「よし、しっかり頼んだぞ」
「では、御無事を祈っています」
「うむ、行ってくる。くれぐれも短気をおこしてはならんぞ。――ああそうだ。俺が行ってしまって、力のないお前が、万一激浪にさらわれてはいけない。そういう危険のないように、お前の体を、この鉄骨にしばりつけておいてやろう」
川上機関大尉の心は、どこまでも注意ぶかく、そして傷つける部下の身の上にやさしかった。
小暗い下甲板
川上機関大尉は、半裸体に、日本刀を背中に斜に負い、組立鉄骨をのぼっていった。
鉄骨の表面は、海水にじめじめと濡れていて、リベットに足をかけると、そのままずるずると滑りおちて腕をすりむいたり、足の生爪をはがしたり、登攀《とうはん》はなかなか容易な業ではなかった。それでも三十分あまりの後、彼はとうとう最下層の甲板までたどりついた。
甲板の隅で、川上機関大尉はしばらく息をいれていたが、そのうちに元気をとりかえしたものと見え、その狭い通路を匐うようにしてそろそろと場所をうごきだした。
すると、真正面から、いきなりあらあらしい足音が近づいた。
川上機関大尉は、はっと体を縮めるなり、飛鳥のようにカンバスのうしろにとびこむと、そのかげに平蜘蛛のようにぴったりとはりついた。
やがて彼の眼の前を、長身の水兵が鼻唄まじりで、風のように通りすぎた。
(おお、気づかれずにすんだか。もちっとで鉢合せをして、呼笛でもふかれるところであった)
川上機関大尉は、ほっと胸をなでながら、積みかさねられたカンバスの山のかげから姿を現した。
すると今度は、反対に後方から、別のあらあらしい足音が聞えた。
(あっ、見つかってはたいへん!)
もうカンバスの山にかえる暇はなかったので、思いきって通路を向こうへ、つつーと栗鼠《りす》のように駈けぬけた。
(どこか、隠れるところはないか)
と、そこに見えた横道にとびこむと、これがなんと行きどまりの袋小路だった。
(しまった!
前へ
次へ
全129ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング