わずか、あと四つの数だ!
 ピルトルの引金を握りしめた右手から油汗がにじみ出した。
 轟々たるエンジンの唸は、室内をゆりうごかして、一段とものすごい。
「――七《なな》、八《や》ア、九《こ》ノ……」
 あっ、のこりの数は、もうあと一つ!
 そのとき突然、高声器が大きな声を発した。
「二十五ノットに、スピードを上げい!」
 司令塔からの号令だ。
「はい、二十五ノットに上げまあす」
 川上機関大尉は、一秒のおくれもなく、伝声管のなかに復誦した。そしてただちに給油|弁《バルブ》を開くために、ハンドルをぐるぐる廻しはじめた。
(十《とお》オ!)
 と、最後の数字をかぞえようとして、フランク大尉は、それを喉の奥にのみこんだ。すっかり気を奪われたのであろう。ピストルの銃口だけは、川上機関大尉の方に向いているが、引金にあたっている指にはもう力がはいっていない。
 気が臆したフランク分隊長は、こうなればもう銅像みたいなものだった。
「はい、二十五ノット、よろしい。エンジンはいずれも快調です。異常変動、全くみとめられず!」
 川上機関大尉の声は、いよいよ冴えた。
 その声がフランク大尉の鼓膜をうつと、彼は反射的にピストルの引金をぎゅっと握りしめた。
(十《とお》オ!)
 その瞬間、
「あっ、分隊長! な、なにをなさるんです」


   フランク分隊長の話


 左手の通路から、おどりこんできたのは、ケント兵曹だった。
「あっ、あぶない」
 と叫ぶのも口のうち、彼はフランク大尉と川上機関大尉との間に、すばやく立ちふさがった。
「おい、退け。なにをするんだ」
「フランク大尉、あなたこそ、何をなさるんです」
「ケント兵曹。のかんか!」
「お待ち下さい。――まちがいがあってはなりません」
「なに、まちがい? 何のまちがいだ」
「ああ、御存じないのですか。いまわが飛行島は試運転中で、それにつきまして、リット少将閣下は、わが機関部が最善の成績を上げるようにと訓令せられました」
「そんなことは、よく分かっている」
「ところが、さっきこの第四ディーゼル・エンジン班の一人の部員が急にめまいがしてぶっ倒れましたが、それにつづいてたおれる者続出、今では十六七名という多数にのぼっております」
「そ、そんなことがあるものか。俺は、そんな報告に接しておらぬぞ」
「あれ、フランク大尉は御存じなかったのですか」
 
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