全身でもってうちやぶり、外へとびだして行ったのであった。
がちゃん、がらがらがら。
ひどい音だ。その音が、リット少将の耳にはいった時は、機関大尉は、硝子の破片もろとも、窓の外へおどり越えていたのであった。
二枚の板片――彼が両手にしっかと持っていたその板片は、この大冒険にあたって、彼の顔面がじかに窓硝子に当って大怪我をするのを安全にふせいだのであった。
機関学校時代、機械体操にかけては級中に鳴りひびいた川上機関大尉であればこそできた離れ業であった。
「ああ!」
「おお!」
さすがのリット少将も、また警備隊員達も、この早業にすっかり胆をつぶしてしまって、藁人形のように窓硝子の穴を呆然とみつめるばかりであった。
杉田二等水兵は、胸がすーっとした。そして、
「おお!」と、思わずうなった。こんな痛快なことがまたとあろうか。もう死んだものと諦めた刹那《せつな》に、ぱっと生きかえったのである。死中に活を求める。これこそ日本にのみ伝わる武芸の神秘であった。
「おい、お前たち、なにをしている。早く追え!」
リット少将の、われ鐘のような怒声に、警備隊員たちは、やっとわれにかえった。
「あっ、向こうへ飛びおりたぞ」
「逃がすな」
すぐさま二手にわかれて川上機関大尉のあとを追いかけた。が、機関大尉が、いつまでも追って来る彼等を待っているはずはなかった。
窓枠の上にのぼり、こわれた窓から外を恐る恐る覗いた警備隊員の顔と、一方外から、大廻をして破れた窓を見上げた警備隊員の顔とが、上からと下からとくすぐったく視線をぶっつけ、
「ちぇっ、逃げられたか」
「恐しくはしっこい奴めだ」
と、つぶやきながら横を向いてしまった。飛行島のアンテナ線にとまっていた阿呆鳥の群が、このとき白い糞を下におとして、藍をとかしたような大空にぱっと飛び立った。
懸賞の首
自室に戻ったリット少将の、怒った顔こそ、この飛行島ができてからこの方の大見物であった。
「ばかめ、ばかめ、大ばかめ!」
自分自身を罵るように呶鳴り散らしながら、絨毯の上をどすんどすんと歩きまわるのであった。
「相手は、たった一人ではないか。たった一人の東洋人を捕らえかねて、島内がまるで蜂の巣をつついたように騒ぎまわっているとは、一たい何たるざまだ。リット、お前は、何のために、大勢のすぐれた部下を率いているのだ」
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