。それは、師父《しふ》ターネフであった。ターネフのうしろでは、例のうつくしい姪《めい》のニーナ嬢が、そわそわしながら、しきりにあたりに気をくばっている様子。
「なんといっても、だめ、だめ。老人の方と子供衆《こどもしゅう》が、先ですぞ」
 と、船員は正しいことを、いいはる。
「わたくし、姪のニーナをつれています。ニーナは、かよわい女です。そして、彼女は、国際的に高い地位を持った淑女《しゅくじょ》です。ニーナを、はやくボートにのせるのが、礼儀です。日本の船員、礼儀を知りませんか」
 師父ターネフは、やっきとなって、ボートの中へ、わりこもうとつとめている。
「ニーナ嬢は、子供さんでもないし、お婆《ばあ》さんでもないでしょう」
「気高い淑女です」
「男であろうが、女であろうが、若い人は、あとにしてもらいます。もう、これ以上、問答無用です。あなたは、うしろへさがってください」
 と、船員は、師父ターネフに対し、このあわただしい際にも、一通り話のすじみちをたててターネフの横車をおしもどしたのであった。
「日本の船員、礼儀を知りません。あなたがた、いまに、思い知ること、ありましょう」
 と、師父ター
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