、これだけ、皆がさわいでいるのに、かんじんの松ヶ谷団長がちっともあらわれないではありませんか。あの耳の早い、そして人一倍に口やかましい団長が、なぜ、ここへとんでこないのでしょう」
「あら、そうね」
「ね、わかるでしょう。ミマツ曲馬団の中に起ったトラ十事件のさわぎをよそにして、ここへかけつけないところを思うと、これはどうも、団長も、行方不明になっているのじゃないかと思うのです」
「まあ、曾呂利さん。あなたはこれまで、青い顔をした、いくじのない方だと思っていたけれど、今日は、とても、すばらしいのね。まるで名探偵そっくりだわ」
「房枝さんは口が上手《じょうず》だね。そんなに僕をひやかすのは、よしにしてください」
「いや、ほんとうのことをいっているのよ。あたしいつだか、新聞だったか、本だったかで読んだのですけれど、帆村荘六《ほむらそうろく》という名探偵があるでしょう。その名探偵帆村荘六のことを、今思い出したのよ。そう名探偵は、背が高くて、青い顔をしていて、唇をへの字にまげるのがくせなんですって」と、いいながらも、房枝は、目の前にいる曾呂利本馬が、ひどく帆村荘六に似ていることに気がつくと、なんだ
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