したちが、一足先に来たというわけにちがいない。やれやれ気づかれがした」
 黒川は、そういって、冷たい石段に腰をおろした。そのときである。とつぜん、階段の上から思いがけない人のこえがした。
「ふふふふ。さっきからこっちは待ちくたびれていたぞ」
「あっ!」
 黒川は、それをきくと、石段からはねあがった。

   襲《おそ》う者《もの》、追《お》う者《もの》

 房枝も、ひじょうにおどろいた。
 だれもいないと思った石段の上から、とつぜん一人の男が、とびだしてきたのだから。
(何者だろうかしら)
 房枝は、うしろに身をひいて、ビルの壁にぴたりとよりそって、とつぜん、とびだした怪漢の顔を見定めようとする。
 すると、その怪漢が、つかつかと下りてくると、房枝の手をぐっとにぎった。
「おい、房枝。にげたりすると承知しないぞ。むかしの仲間をそまつにするな。さあ、こっちへはいれ」
 そういうこえに、房枝はおぼえがあった。そして闇の中にうかぶ顔を見れば、それは房枝の思ったとおり、元の座員のトラ十であったではないか。
「ああ、トラ十さんなのね」
「そうだトラ十さまだ。お久しゅうござんしたね。雷洋丸がやられ
前へ 次へ
全217ページ中135ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング