等運転士をはじめ、どなたもみとめますねえ」
そういわれて、一等運転士は、他の船員たちの方をふりかえった。誰か、青年紳士のことばに反対する人があるかと思ったからだ。しかし、誰も彼も、青年紳士のしっかりした言葉に息をのまれて、ただ、互いに顔を見あわせているばかりだ。
「このことは、皆さん、異議がないようですね。窓わくのここのところがいぶっていれば、どういうことが分かるか。結論を先にいいますと、ピストルをうった犯人は、背が非常に高いということです。ピストルをうつときには、このいぶったところが、ほぼ犯人の肩の高さになるのですから、ほら、ここが肩だとすると、私よりも十センチ以上も高いたいへん背の高い人物だということがわかる。いかがですな」
と、かの青年紳士は、一同を見まわした。
「な、なるほど」と、叫んだ者もあった。
「この房枝嬢は、ごらんのとおり、日本人としても、背の高い方ではない。だから、房枝嬢がやったのではないことが分かりましょう。房枝さん、ここへ来て、ピストルをこのいぶったところへつけ、射撃のしせいをやってみてください」
房枝は、いわれるまま、ピストルをも一度にぎって、そのとおり試みたが、ピストルは目よりもずっと高いところにある。
「どうです、皆さん。これでは、室内の人物を狙《ねら》いうつことはできません。弾は天井へあたるだけです」
「なるほど、これは明らかな証明だ。いや、よくわかりました。この女の方がやったのではないことだけは、はっきりしました」
と、一等運転士は、わるびれもせず、自分の考えのあやまりだったことをわびて、房枝のうたがいをといた。
房枝は、やっと、ほっとした。
「で、あなたは、一体どなたですか」
と、一等運転士は、せきこんで、青年紳士に尋ねた。
「私? 私は、ピストルに狙われた本人ですよ。ミマツ曲馬団で曾呂利本馬《そろりほんま》と名のっていましたが、実はこういうものなんです」
と、一等運転士に、そっと身分証明書を見せた。
それには、探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》の身分が、はっきりしるされてあったので、一等運転士は、あっとばかりおどろいてしまった。
帆村《ほむら》は誇《ほこ》らず
名探偵帆村荘六は、曾呂利本馬の仮面をとりさって、ここに、すっきりした姿を、雷洋丸上にあらわしたのであった。
一等運転士は、さっそく、このおどろく
前へ
次へ
全109ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング