か、おそろしくなった。
「房枝さん。そんなばかばかしい話はもうよしにしましょう」
そういっているときだった。ろうかのむこうに、がたがたと、高い足音がきこえ、こっちへ、急いでくる様子だった。食堂へとびこんできたのをみると、それは、さっき甲板へ様子を見にいった連中だった。
「おい皆、船は大丈夫だから、安心しろ」
「えっ、大丈夫か。沈没するような心配はないか」
「うん、沈没なんかしやせんよ。さっきの爆弾は、左舷《さげん》の横、五、六メートルの海中で炸裂《さくれつ》したんだそうだ、それだけはなれていりゃ、大丈夫だ」
「へえ、そうかね。こっちの船体に異状がないと聞いて、大安心だ」
「なにしろ、灯火管制中だから、明りをつけて検査するわけにはいかないが、船腹の鉄板が、爆発のときのひどい水圧で、すこしへこんだらしい。しかし、大したことはないそうだ」
報告は、なかなかくわしい。
「爆発は、もう、それっきりなんだろう」
「そうだ」
「じゃあ、あとはもう心配なしだな」
と、一同は、ほっとためいきをついた。
「それから、もう一つ、へんな話をきいたぞ。甲板に立っていた船員の一人が、あの爆発のときに、たおれたんだそうだ。ほかの者が、それを見つけて抱きおこした。爆発の破片で、からだのどこかを、やられたんだろうと思ってしらべてみた。すると、別にどこもやられていない。そのとき、へんだなあと思うことが一つあった。お前たちは、それが分かるか、そのへんだなあという一件が」
「そんなこと、分かるものか。早くしゃべれ」
「それは、奴《やっこ》さんのたおれた場所に、きれいな花が、ばらばらと落ちていたんだ。だから、奴さん、爆弾にやられたんじゃなくて、花束でもって、なぐられたんじゃないかって、誰かそういっていたよ」
「へーえ、花束でなぐられて目をまわしたというわけか。まさか、はははは」
房枝も、さっきから、この話を、じっときいていたが、ここでおかしくなって、つりこまれたように笑った。
そのとき、気がつくと、曾呂利本馬の坐っていた席が、いつの間にやら、空になっていた。
ニーナ嬢《じょう》
この雷洋丸の一等船客に、一きわ目立って、姿のうつくしい、外国人の令嬢がいた。その名をニーナ・ルイといって、国籍は、メキシコと届けられていた。
ニーナ嬢は、いつもすっきりした軽い服に、豹《ひょう》の皮のガウンを
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