と、これはニーナの弁明である。
「ふん、まあ、これはいいとして、例の方は、手ぬかりないだろうな」
「ええ、準備は、もうすっかりついています。今回同時爆発をとげる工場の数は、全部で五十六ということになっています」
 ワイコフ医師は、とんでもない報告をするのであった。
「同時爆発というが、まちがいないだろうかねえ。時刻がきちんとあわないと、どじをふむからなあ」
「その点は、大丈夫です。ものの五分と、くいちがいはないはずです。すっかり試験をしてありますから、まちがいなしです」
「銅板《どうばん》を酸がおかして、穴をあけるまでの時間だけ、もつというわけじゃな」
「そうです。つまり、時計仕掛よりも、この方が場所もとらないうえに、発見される心配がないのです。銅板の厚さと酸の濃度からして、発火時刻は、今夜の九時ということになっています」
「えっ、九時か、九時は、いけないよ。午後四時に爆発させなきゃ効目がうすい」
「九時にするようにと、御命令がありましたが」
「うん、はじめはそういった。しかし九時はいけないよ。どうにかして、四時爆発ということにならないか」
「困りましたな。全部やりかえるとなると、今からやっても、もう間に合いません」
「ふん、ちょっと、ぬかったな。いや、わしも注意が足りなかったのじゃ、じゃあ、仕方がない、午後九時の爆発で我慢をするか」
「九時でも、相当きき目があると思います。つまり工場には番人だけしかおりませんから、爆発が起れば、貴重な機械は完全に壊れるうえに、火災が起っても、人手が足りないから、どんどん延焼《えんしょう》していきます」
「だがなあ、ワイコフ。午後四時の作業中に爆発をやった方がもっと効目があるぞ」
「そうですかしら。私は反対のように、考えますが」
「お前は、あたまがまだよくないぞ。いいか、作業中にやれば、五十六箇所の工場の機械が壊れるうえに、そのそばにいた何千人何万人という熟練職工がやられてしまうじゃないか。機械と職工とこの両方をやっつけてしまえば、ここで日本の生産力というものはどんと落ちる。機械と職工との両方を狙うのが、うまいやり方なんだ、どうだ、これでわかったろう」
「なるほど、一石二鳥という、あれですね」
「機械だけで、いいじゃありませんか。職工まで殺すなんて、ちと野蛮ね」
 ニーナが口をはさんだ。
「野蛮もなにもない。あたりまえだ。機械はすぐ
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