すからねえ。そのへんのことが、たいへん謎にみちていますねえ」
曾呂利青年は、ふだんの無口にもにず、しっかりした口調《くちょう》でいった。
「まあ、そんなことが、あったかしら。あたし、気がつかなかったわ」
と、房枝は、曾呂利の顔を、あらためて見直しながらいった。
そのときであった。とつぜん、甲板《かんぱん》の方で、どーんという大きな音がして、部屋の壁が、ぴりぴりと震動した。
いったい、それはなんの音だったろうか。
ねらわれているこの汽船雷洋丸の中に、ついに起った怪事件の真相は?
らんぼう者のトラ十は、どうしたのであろうか。あやしい花籠は、どこにあるか?
闇《やみ》の甲板《かんぱん》
とつぜん、甲板の方で、どーんという大きな音がしたものだから、船客たちは、きっと、顔色をかえた。ミマツ曲馬団の一行も、びっくり仰天《ぎょうてん》!
「あっ、あの物音はなんだ」
「今の音は、爆弾でも落ちたのかな。この船は、しずめられちまう! おい、どうしよう」
「どうしようたって、仕方がないじゃないか。そのときは、この汽船につかまってりゃ、それこそ海の底まで、ひっぱりこまれる」
「おい、じょうだんじゃないぞ。われわれは、どうすればいいんだ」
「どうにも仕方がないさ。いずれそのうち、鼻の穴と口とに海水がぱしゃぱしゃあたるようになるだろう。そのときはなるべく早く、泳ぎ出すことだねえ」
「泳げといっても、お前がいうように、そうかんたんにいくものか。ここから何百キロ先の横浜まで、泳いでわたるのはたいへんだ」
などと、さわぎたてる。
あやしい血痕のことについて、この三等食堂へかけつけ、取りしらべをしていた事務長は、しらべをやめて、ろうかの方へ走り去った。
「おい、お前たち、そんなくだらんことをしゃべるひまがあったら、甲板へ上って、この汽船がどうなったのか、ようすを見てこい!」
隅《すみ》っこの席で、ゆうゆうとまだ飯をくっているカナリヤ使の老芸人鳥山が、どなった。
「ああ、そうだ。じゃあ、大冒険だが、ちょっといって、見てこよう」
「待て、おれもついていってやる」
若い団員が二人、猿のようにすばやく、昇降階段《しょうこうかいだん》をよじのぼっていった。
甲板の方できこえた爆音のような大きな音は、一発きりで、あとはきこえなかった。もっとつづけさまに、爆撃されるだろうと、ふるえ
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