警察におさえてあるのですから、やっぱりこの女、房枝といいましたかな、この房枝嬢も、連れていかなければなりません」
帆村は、うなずき、房枝の方を向いて、
「房枝さん、このミマツ曲馬団の火事には、いろいろうたがいがあるのです。火事を出したということよりも、火事のまえに起った爆発のことが、問題になっているのです。あなたも知っていることを、みんな警官に話してくださいよ」
と、注意を与えた。
「そうだ、帆村君のいうとおりだ」
部長の服をきた警官は、大きくうなずいて、
「房枝さん、あなたは、きっと知っているだろう。新聞には、ガソリンの樽がどうとかしたと書いてあるが、われわれは、そんなことを信じていない。どんな爆発物があったか、それを話してください」
帆村が来てくれたので、房枝に対する警官の態度は、にわかにていねいとなった。
房枝は、あの花籠のことを、いおうかどうしようかと思い、何の気なしに、ニーナの方をふりかえった。すると、さっきから房枝を見つめていたニーナは、なぜかあわてて目をそらした。
ひどい逆《さか》ねじ
「さあ、よくは存じませんが、あたしたちの曲馬団を爆破するかもしれないぞ、という脅迫状がきていたのです」
房枝は、ありのままをいった。そしてバラオバラコという名前のあった、その脅迫状のことをいった。
「その手紙を今持っていますか」
「いいえ、持っていません」
「どこにあるのですか。ぜひ見たいものだが。ねえ、部長さん」
と、帆村は、警官をふりかえった。
「そうだ、手紙を見れば、また手がかりもあるはずだ。その手紙はどうしたのですか」
「黒川団長が持っているはずです。団長さんは、ゆうべ重傷を負い、いまニーナさんのお邸でやすませていただいているのですわ」
「えっ、ニーナさんの邸?」
帆村は、そういって、ニーナの顔を仰いだ。
「そうです。あたくし、房枝さんと黒川さんとを助けました。ゆうべからけさまで、あたくし、いろいろ介抱しました。黒川さん、だいぶん元気づきましたが、まだうごかすことなりません」
「ほう、すると、ニーナさんは、ゆうべ黒川氏を助けてからのちは、一歩も外に出なかったのですか」
「そのとおりです。なぜ、そんなことを、たずねますか」
「いや、ちょっとうかがってみたのです。では、師父のターネフさんは、やはり邸にずっといられましたか。もちろん、ゆうべ、
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