に触れた人間は即死しなければならない。そしてお由は丁度その樋の傍《そば》に仆れていたのであった。
では、お由殺しの犯人は土岐健助か、それとも喜多公か?
二人の過去を洗って見ると、土岐の方は変電所から開閉所《かいへいしょ》へとコツコツ転任されて歩いた外《ほか》、これと言って変化の無い単調な過去しか持っていないに反して、喜多公の方はいろいろな電気工生活をやって来ている。その上、お由がまだ工場にいたころ、そこの試験係を勤めていた事実もあって、当時仲間の一人が試験中に感電死した時、可溶片《ヒューズ》が早く切れた為に只指先と足の裏に小さな傷を受けたまま美しく死んだ事件を見たこともあるそうである。
で、犯人が喜多公とすれば、親分とお由を張り合った結果、お由が思う様にならないので、あの夜自分が非番であるにも係わらず、忍んで行って、犯行の後、巧みに千往|遊廓《ゆうかく》へ現われたとも考えられた。
しかし又、白蛇のお由を知っている四十男はこう言うのである。
「ああいう形の女は、私達年配の男に好かれる者ですよ。吉蔵親分だってそうでしょう。土岐さんも丁度|厄年《やくどし》位だったじゃありませんか。いくら懇意《こんい》にしていても、つい目の前で楽しんでいる所を見せられちゃ、一寸妙ないたずら気も起りまさあね。それに腕のいい人でしたからね――」
いずれにしても二人が死んだ後、お由殺しの事件の捜索は即刻打切られてしまったので、これ等はただ苦労性の人々の臆説《おくせつ》にすぎないのである。
底本:「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房
1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「新青年」博文館
1929(昭和4)年6月号
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2004年11月8日作成
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