忽《たちま》ち土地の警察は言うまでも無く、警視庁|強力犯係《ごうりきはんがかり》の大問題となって、時を移さず血眼の大捜索が開始された。お由の屍体は直ぐに大学病院に運ばれて解剖に附《ふ》されたが、其処からは何等犯罪的な死因は得られず、或いは一種の頓死《とんし》ではないかとさえ言われたが、屍体|損壊《そんかい》の点から見ても、矢張《やは》り他殺説の方が一般に主張された。
そこで屍体は一時亭主の吉蔵に下げ渡され、今戸の家へ親戚一同が集ってしめやかな通夜《つや》をする事になったが、其の席上で端なくも意外な喧嘩が始まってしまった。というのは、恋女房の棺《ひつぎ》の横に坐って始終腕組みをしていた吉蔵親分が、つと焼香に立った喜多公を見て、悲痛な言葉を浴びせたに始まる。
「喜多公、よく覚えて置けよ。殺された女の恨《うら》みは七生|祟《たた》るっていうからな」
「何んですねえ、親分。冗談じゃねえ」
「なに! 女房が殺されたってのに、冗談口を利く亭主が何処にある。てめえの為を思うから言ってやるんだ。後世《ごしょう》の事を思ったら、今の内に――」
「親分! 乙に絡んだものの言い方をしやすね」苦笑いをしていた喜多公は、そこまで言われるとキッとなって形を改めた。「冗談なら冗談でいいが、親分! それを本気でお言いなさるんなら黙っちゃいませんぜ。べら棒め、姐御の屍骸《しがい》が何を喋っているか知ってるなア、一人ばかりじゃねえ!」
「何んだと? てめえはそれじゃ、おれの恩を仇《あだ》で返《けえ》す気だな。よし、そんなら言って聞かせる事があらあ。一体、お由の屍骸を一番初めに見附けて来たなあ何処の何奴《どいつ》だ。あの晩、てめえは何処で何をしていやあがったんだ。お由の胸へ匕首《あいくち》を差し附けて……」
「親分、それじゃ姐御を殺したなあ、あっしだと言うのか!」
「胸に聞いたら判ることだ」
「何んだと!」
さっと茶呑み茶碗が飛んで壁に砕けた。途端《とたん》に血相《けっそう》を変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、――が、其の場は仏《ほとけ》の手前《てまえ》もあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に、丁度《ちょうど》張込んでいた刑事がどかどかと踏込んで来た。そして関係者一同はすぐに拘引《こういん》されてしまった。
しかし二時間ほどすると、エレキの喜多公だけを残して、他の一同は警
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