問いあわせました。
 すると、すぐ艦隊の司令官からへんじがあって、スパイ国のせいばつよりも、「地底戦車」を発明した、きょうだいの父親が、いまわる者どもにひどい目にあっているから、二人をつれてすぐこっちへかえってくるようにと命令が出ました。
 高一とミドリは、しんぱいでもあり、またおおよろこびです。これから海軍の軍人さんたちと、父親をたすけにゆくことになったのですから。駆逐艦は北の方にむきなおると全速力をだしました。
 荒海の波をけたてて、ずいぶん、ながい間走りつづけて、駆逐艦はついに港につきました。
 高一とミドリとは、艦長におわかれをいって、大石大尉という士官につれられて上陸しました。
 上陸してみると、これは日本ではなく、朝鮮半島でありました。朝鮮半島もずっと北の方で、満州国にちかいところの、さびしい港町でありました。
「大石大尉、私たちのお父さんはどこにいるのですか」
 と、高一がたずねると、大尉は顔をくもらせて、
「それがねえ、たいへんなところなのだよ」
「たいへんなところというと――」
 父親がたいへんなところにいるときいて、高一とミドリはまっさおになりました。
 大石大尉は金庫をあけて、中から一枚の地図をとりだし、高一とミドリの前にひろげました。
 その大地図は、国ざかいふきんのくわしい図面でした。なかほどに大きな川がながれており、その川のまん中に、中の島があります。
 その中の島を大石大尉はゆびさして、
「この中の島なんだよ。あなたがたのお父さまがとりこになっているところは――」
「えっ、とりこですって」
「そうだ、敵のため、ここにつれこまれたのだ。敵はお父さまの発明した『地底戦車』のひみつをしりたくて、こんなひどいことをしたのだよ」
「なぜ、助けださないのです」
 高一はこぶしをにぎってさけびました。
「まあ、きてみてごらん」
 高一とミドリは、大石大尉にともなわれて、ざんごうへ出ました。そこから二本の角《つの》がでたような望遠鏡で、中の島の方をそっとのぞかせてくれました。
「ああ、これはトーチカだ」
「えっトーチカ。トーチカって、あの――」
 きょうだいのおどろくのもむりではありません。鉄とコンクリートでかためたちいさい要塞《ようさい》で、そのちいさい穴から大砲や機関銃が、いつでもうてるように、こっちをむいているのです。せめてもなかなかおちない要塞です。
「せめてゆけないこともないが、そうすると、お父さまもころしてしまう。まったく私たちもこまっているんだ」
 大石大尉は、ざんねんそうにいいました。
 いろいろ苦労して、せっかくここまできてみれば、きょうだいの父親はトーチカの中にとらわれの身となって、こっちから鉄砲もうてないのです。高一も、がっかりしました。
 しかし、どうしてこのまま父親をみごろしにできましょう。ミドリはなくばかりです。
 それからというものは、高一はたすけだす工夫をいろいろと考えました。そして、ついに大決心をしました。
 それは三、四日のちの朝のことです。中国服すがたの高一は、川上から船にのりこみました。高一は、あのおそろしいおそろしい力の電気鳩をつれています。そのほかに、一頭のなつきやすい軍用犬をかりうけて、船にのせました。
 いよいよ決死の冒険です。高一はうまく父親を助けだせるでしょうか。


   輝く日章旗


 中の島にある敵のトーチカに、お父さまがおしこめられているときいて、高一少年は大決心をしました。妹ミドリのことは、大石大尉などによくたのんで、高一は中国人少年にすがたをかえ、あのおそろしい力のある電気鳩を、ゴムの袋にいれて腰にさげ、一頭の軍用犬をつれて、川上から船にのりました。
 さいわい、川の上には朝ぎりがもやもやとたちこめたので、うまく敵兵の目をくらまし、ぶじに中の島にこぎよせることができました。
 さあ、これからどうして、お父さまの秋山技師をたすけだすか?
 高一としては、もとより命をなげだしての大しごとです。父親が敵にとりこにされているのをみて、どうして、じっとしていられましょうか。また、日本の国をまもる「地底戦車」を発明したお父さまを、いつまでも敵にうばわれていて、それでいいものでしょうか。といって、日本の兵隊さんがせめれば、お父さまのお命があぶない――子供なればこそできるかもしれないという、今日の大冒険なのです。
「お父さまをぶじにすくいだすことができれば、ぼくは、死んでもいいんだ」
 島についた高一は、まず船のなかから、りんごのいっぱいはいったかごを上にあげました。そして、軍用犬をつれて島にとびあがりました。
 高一は、りんごのかごをかたにかけて、トーチカの方へ歩いてゆきました。
「こら、少年まて。どこへゆくんだ」
 思いがけない立木のかげから、銃剣をかまえた敵
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