兵がとびだしました。
「……」
高一は口をきかないで、かごのりんごをゆびさしました。そしてむしゃむしゃたべるまねをして、ほっぺたがおちるくらい、おいしいぞという顔をしてみせました。敵兵は、
「なんだ、お前は口がきけないのか。りんごを買えというのだな。なるほどうまそうなりんごだ――しかしこの小僧め、どこから来たか、ゆだんがならないぞ」
と、つばをのみこんだり、目をむいたり。
高一は、敵兵と仲よしにならなければいけないと思い、一番おおきいりんごをひとつとって、敵兵の手にのせてやりました。
敵兵は、おどろいた顔をしましたが、やがて、ポケットからお金を出そうとしますので、高一は、いらないいらないとおしかえし、そして、早くたべろと手まねですすめました。
敵兵はりんごをたべると、きげんよくなりました。そこで、高一はトーチカの方へりんごを売りにゆきたいから、つれていってくれと手まねをし、またひとつりんごをやりました。
このよくばり敵兵はすっかりよろこんで、高一を、トーチカの方へつれてゆきました。
「おいみんな、うまいりんごを売りにきたぞ」
そういうと、中からどやどやと敵兵があらわれました。
りんごはうまいうえに、ねだんもたいへんやすいので大人気です。
ところがとつぜん、高一はうしろから大きい手で、かたをつかまれました。
「こら、小僧。口がきけないふりなどをしているが、あやしいやつ、お前は日本のスパイだろう」
高一が、ふりかえってみると、りっぱな敵の将校でした。それは、トーチカの隊長だったのです。
高一は、わざとかなしい顔をしてあやまりましたが、隊長は、しょうちしません。そして、高一をひきずるようにして、トーチカの中の自分のへやにひっぱってゆきました。りんごはかごからおちて、そこらじゅうにごろごろところげました。
「さあ、こっちへはいれ。しらべてやる」
高一はもうこれまでと思い、腰の袋をあけて電気鳩をだしました。そして、りんごのかごのなかにかくしてある、電気鳩をうごかすきかいをひねりました。
電気鳩は、ものすごい羽ばたきをして、隊長の頭の上をぐるぐるまわりだしました。
「おや、へんな鳥がとびだしたぞ」
隊長は、はらをたてて剣をぬくと、電気鳩にきりつけました。
「あっ――」
ぴかり、といなびかりがみえたかと思うと、隊長は、その場にたおれました。電気鳩のだ
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