です。
「せめてゆけないこともないが、そうすると、お父さまもころしてしまう。まったく私たちもこまっているんだ」
 大石大尉は、ざんねんそうにいいました。
 いろいろ苦労して、せっかくここまできてみれば、きょうだいの父親はトーチカの中にとらわれの身となって、こっちから鉄砲もうてないのです。高一も、がっかりしました。
 しかし、どうしてこのまま父親をみごろしにできましょう。ミドリはなくばかりです。
 それからというものは、高一はたすけだす工夫をいろいろと考えました。そして、ついに大決心をしました。
 それは三、四日のちの朝のことです。中国服すがたの高一は、川上から船にのりこみました。高一は、あのおそろしいおそろしい力の電気鳩をつれています。そのほかに、一頭のなつきやすい軍用犬をかりうけて、船にのせました。
 いよいよ決死の冒険です。高一はうまく父親を助けだせるでしょうか。


   輝く日章旗


 中の島にある敵のトーチカに、お父さまがおしこめられているときいて、高一少年は大決心をしました。妹ミドリのことは、大石大尉などによくたのんで、高一は中国人少年にすがたをかえ、あのおそろしい力のある電気鳩を、ゴムの袋にいれて腰にさげ、一頭の軍用犬をつれて、川上から船にのりました。
 さいわい、川の上には朝ぎりがもやもやとたちこめたので、うまく敵兵の目をくらまし、ぶじに中の島にこぎよせることができました。
 さあ、これからどうして、お父さまの秋山技師をたすけだすか?
 高一としては、もとより命をなげだしての大しごとです。父親が敵にとりこにされているのをみて、どうして、じっとしていられましょうか。また、日本の国をまもる「地底戦車」を発明したお父さまを、いつまでも敵にうばわれていて、それでいいものでしょうか。といって、日本の兵隊さんがせめれば、お父さまのお命があぶない――子供なればこそできるかもしれないという、今日の大冒険なのです。
「お父さまをぶじにすくいだすことができれば、ぼくは、死んでもいいんだ」
 島についた高一は、まず船のなかから、りんごのいっぱいはいったかごを上にあげました。そして、軍用犬をつれて島にとびあがりました。
 高一は、りんごのかごをかたにかけて、トーチカの方へ歩いてゆきました。
「こら、少年まて。どこへゆくんだ」
 思いがけない立木のかげから、銃剣をかまえた敵
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