。さあ、こんどはかわいそうなミドリを、たすけてやらなくてはならない」
 日のくれるのをまって、高一はだいたんにも、スパイ団のテントにそろそろしのびよりました。するとテントのなかでは、団長をはじめわる者どもが、お酒をのんで、おおごえでうたったりおどったりしているところでありました。
 そのうちに、団長もよろよろとたちあがって、手をふり、足をふんで、おどりだしましたが、かたにかけている小さなかばんが、ぶらぶらするので、じゃまになって、うまくおどれません。
「いよう、団長しっかり。そんなきたないかばんなんか、おろしておどれよ。あっはっはっ」
 たれかが、ばかにしたような笑いかたをしました。団長は目をむいて、
「ばかをいえ。きたなくても、この中には、電気鳩をうごかす大事なきかいがはいっているのだぞ。どうしておろせるものか」
 電気鳩をうごかすきかい! ああ、そんなきかいがあったのか。電気鳩は、このかばんをもっているスパイ団長の手によってうごかされていたのです。高一は、テントのすきまから、目をまるくしておどろきました。
「電気鳩は、海のそこにしずんでしまったんだよ。うごかすきかいばかりのこっていても、なにも役にたたんじゃないか。あっはっはっ」
「そうだ、それもそうだな。じゃ、こんなかばんを大事にしておくんじゃなかった」
 そういって団長は、その黒いかばんをかたからはずして、テントのすみにほうりなげました。そして、すっかり身がるになって、ゆかいにおどりはじめました。
 そのとき、テントのすみから、小さい手がぬっとあらわれました。その手は、そろそろと、黒いかばんの方へちかづき、それを、じっとつかむと、するするとテントの外にひっぱりだしました。
 あやしい小さい手です。それは、いったいたれの手だったのでしょうか。


   めぐりあい


「しめしめ、電気鳩をうごかすきかいが手にはいったぞ。ようし、いまに見ておれ」
 テントの外では、高一少年が黒いかばんをぶんどって、おおにこにこでありました。
「さあ、ここで、わる者どもが酒によっぱらっているうちに、ミドリをさがすのだ」
 と、高一は勇気百倍して、ほかのテントへいってみました。
 丘のかげに、ひとつのまっくらなテントがありました。どうやら番人がいそうもないので、高一は、もっていた懐中電灯をつけてみると、中には、船からもってきた荷物が
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