て呉れるから、比較的安全だ。それに反して、電気文明の方は、電気の流れていることが、眼にも見えなければ、耳にも聞えやしない。そして誤って触れると、ビリビリッと来て、それでおしまいである。電気の来ていることが判った次の瞬間には、感電死で、自分の心臓はもうハタと停っている。一度停った心臓は時計とちがって二度と動いてくれない。電気を意識したときには、既に己《おのれ》が生命《せいめい》は絶たれている。これほど、人情のない惨酷な存在が外にあろうか。しかも警視庁は、電気の来ていることについて何等の表示手段をとっていない。電線なんてものは皆|鼠《ねずみ》色か黒《くろ》色で、銅《どう》が錆《さ》びた色とあまりちがわない。こうした眼に立たない色だから、つい気がつかないで電線を握っちまったり、トタン塀《べい》を帯電《たいでん》させたりするのだ。その危険きわまる電線が生命の唯一の安全地帯である住家《いえ》の中まで、蜘蛛《くも》の巣《す》のように縦横無尽《じゅうおうむじん》にひっぱりまわされてある。スタンドだ、ヒーターだ、コーヒー沸《わか》しだ、シガレット・ライターだ、電気|行火《あんか》だ、電気こてだと、電気
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