がおくれたものらしい。だからその朝一度その室を訪れた圭さんも気がつかなかったものと考えられる。
警視庁の活動は、はじまった。死体は即刻《そっこく》大学へ廻され、剖検《ぼうけん》された。結果としてその早暁《そうぎょう》二時と三時との間に殺害《さつがい》されたことが判明した。死因は刺殺《しさつ》で、刃物は美事《みごと》に心臓に達している。尚《なお》死の前後に暴行をうけた形跡が存在しているが、被害者の肢勢《しせい》から考えて死後に於て加えられたものとする方が理窟に合う。勿論《もちろん》、兇行原因は痴情関係《ちじょうかんけい》によることは明らかである。しかしながら殺人犯人の見当は中々はっきりついては来なかった。第一、証拠が全くのこされていない。短刀の柄《え》にも指紋はない。被害者は無抵抗で即死したような訳だから、犯人の着衣《ちゃくい》の一部をもぎとってもいない。死体の右手は右の乳房から離され、一応|掌《て》の中を改めてみたが、此処《ここ》にもなんの異常もなく、春ちゃんは単に乳房を握りしめていたというに過ぎないと観察された。圭さんと吉公は、厳重な取調べをうけたが、勿論ボロを出さずにすんだ。しか
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