の行方については兎《と》も角《かく》も、一方お千代の惨死体《ざんしたい》が、又もやカフェ・ネオンの三階に発見されて大騒ぎが始まった。またしても言うが、お千代の最後は惨鼻《さんび》の極《きょく》だった。彼女はどうしたものか、夜中に開かれた表向きの窓から、半身を逆《さかさ》に外へのり出し、丁度《ちょうど》窓と電気看板との間に挿《はさま》って死んでいた。だから暁《あ》け方《がた》になってようやく通行人が、電気看板の上端《じょうたん》からのぞいている蒼白《あおじろ》い脛《はぎ》や、女の着衣《ちゃくい》の一部や、看板の下から生首《なまくび》を転《ころが》しでもしたかのように、さかさまになってクワッと眼を開いている女の首と、その首の半分にふりみだれた黒髪とを発見して大騒動になった。お千代は晴着をつけたまま殺されていた。矢張《やは》り心臓には短刀がプスリと突きたてられ、警視庁で眼をつけていた万創膏《ばんそうこう》も肩のあたりに発見せられた。すべて同一手法の殺人である。そして電気殺人たることは判っているのにもかかわらず、それを瞞著《まんちゃく》しようとてか短刀を乳房の下に刺しとおしてあるではないか。係官は犯人の嘲弄《ちょうろう》に悲憤《ひふん》の泪《なみだ》をのんだ。そして即時、このビルディングの徹底的家宅捜索の命令が発せられた。
その取調べの最中に、フラフラとやって来た岡安巳太郎が苦もなく刑事の手にとり押えられたのは、気の毒にも滑稽《こっけい》であった。
「ゆうべ、誰かがカフェ・ネオンで殺されたでしょう、刑事さん、僕は知っとる。だから、こんな化物《ばけもの》のような電気看板は壊《こわ》してしまえと僕は忠告しといたのです。それにひとの言う事を信用しないものだから、又誰かが殺されちまったじゃないか。今度は誰です。え、お千代、千代ちゃんか。すうちゃんはまだ生きていますかネ。可哀《かわ》いそうな千代ちゃん。あの子の死んだのは、やっぱり今朝の二時二十分です。僕はちゃんとこの眼で、現在みていたんだからな。この看板のやつ、また瞬《まばた》きをしやがった、この化物め!」刑事がこの厄介《やっかい》な男を制する間もなく、岡安は路傍《ろぼう》の大きな石を拾い上げると、パッとネオン・サインを目がけてうちつけた。恐ろしい物音がして、サインの硝子《ガラス》が砕《くだ》け、電気看板が壁体《へきたい》からグッ
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