同じマークのものであった。
 一体この不思議なる軍隊は、何国に属しているのであろうか。
 彼等は、毒瓦斯《どくガス》たちこめる原頭《げんとう》に立って、いささかもひるむところなく、例の大きな機械の組立を急いだ。
 その機械は、間もなく組立てられ終ったものの如くであった。何が始まるか、この機械によって?
 そのとき、きーんと高い音をたてて、機械の軸が廻りだした。その軸は、見る見るうちに地中深く伸びていった。この真下には、マイカ地下大要塞の心臓に相当する大発電所があるのであった。その発電所|目懸《めが》けて、この怪しい長軸は、ぐんぐん伸びていくのであった。
 ラック大将が、このおどろくべき事態に気がついたときは、例の長軸は、発電所の天井を、もう一息で刺し貫きそうなところまで迫っていたのである。
「た、たいへん。マイカ大要塞の、あらゆる動力が停止するぞ。交通も通信も換気も、戦闘も一切《いっさい》が停《とま》っちまうぞ! こんな莫迦《ばか》げた話があるだろうか」
 ラック大将は、恥も外聞も忘れて、大声で怒鳴りつつ部屋中を歩きまわった。
「そうだ、媾話《こうわ》だ。媾話を提議しろ。降服でもいいぞ、相手が承知をしないなら……。とにかく、ここで、発電所をやられてしまったら、たいへんだ。マイカ大要塞が、博覧会の見世物《みせもの》同然に落ちてしまうんだ。そうなると、太青洋の覇王《はおう》どころのさわぎではない。キンギン国は四等国に下ってしまうぞ」
 ラック大将は、自分の一存で、かの骸骨旗軍に、降服を申出《もうしい》でた。
 すると、敵の司令官から、返書が来て“われは、貴軍の降服|申出《もうしで》に応ずるであろう。依ってマイカ要塞の心臓は、只今より当方が監視するから、直《すぐ》に貴軍の兵員を、発電所より去らしめられたい”
 と、本文が終って、そのうしろに、司令官の署名があった。その署名を一目見たラック大将は、あっと声をあげたまま、愕きのあまり、床に尻餠《しりもち》をついてしまったのであった。
 その署名というのは!
“イネ建国軍キンギン派遣隊司令官カチグリ大佐!”
 イネ建国軍! いつの間に、そんなものが出来たのであろうか。アカグマ国に亡ぼされた筈のイネ国軍がどこにどう、再起をはかっていたのであろうか。
 その謎は、やがて解《とけ》た。
 イネ帝国が亡びると同時に、国軍の一部は、悲憤の涙をのんで、数隻の潜水艦に乗って、太青洋に彷徨《さすら》い出たのであった。
 その潜水艦は、太青洋の某無人島にある潜水艦根拠地に一旦落ちついたのであった。
 それから後、この悲憤の戦士たちは、非常な欠乏に耐えつつも、心を一に合して、遠大なるイネ帝国の再建にとりかかったのであった。
 彼等戦士の中には、軍人もあれば、国宝的技術者もいた。その合作によって三十年後の今日彼等はついに一大潜水飛行艦隊を持つことに成功したのであった。そして丁度《ちょうど》二、〇〇〇年を迎えて、敢然立って、太青洋の制覇と、イネ帝国再建の戦を起したというわけだった。
 三十年後の今日、彼等の根拠地は、もはや一無人島ではなかった。太青洋の丁度真ん中に近いひろびろとした海底の下に、どこからも窺《うかが》うことの出来ない海底国があるが、これが今日のイネ帝国の首都であり、また軍事根拠地であった。
 二つの遠征軍が編制された。その一つは、先に、アカグマ国イネ州と名づけられた元の祖国領地へ攻め入って、まず第一岬要塞を占領して旗をあげた。
 もう一隊は、今こうして、東へ進み、キンギン国の咽喉輪《のどわ》を、しっかりつかんでしまったのである。
 イネ帝国の再建、そして太青洋の制覇は、もう目前に追っているのだ。いま西方アカグマ国イネ州の首都オハン市は、炎々たる火災と轟々《ごうごう》たる爆発に襲われ大混乱に陥っている。そして、かの傲岸《ごうがん》なるスターベア大総督は、少数の幕僚と共に辛《かろ》うじて一台の飛行機を手に入れ、一路本国さして遁走中《とんそうちゅう》だとのことである。大総督の、も一つの痛手は、彼の愛娘《まなむすめ》のトマト姫が、イネ建国軍のため、いつの間にか、トマト姫と同じ顔の人造人間に換えられていたことだった。さてこそ、彼の身辺の秘密が、ことごとく、イネ建国軍に知られていたのである。人造トマト姫は、マイクの役をしていたのであった。
 ここで、海底から再び生れ出でたイネ帝国の万々歳を祝さねばなるまい。



底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房
   1990(平成2)年4月30日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
ファイル作成:
2003年6月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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