弾にしろ、不発弾があるなんて、みっともないですね」
「ばかをいえ。不発弾でなかったら、お前の生命《いのち》は、とっくの昔になくなっているわけじゃないか。不発弾であったのが、どのくらい倖《さいわい》だか、わかりゃしない」
「そういえば、そうですな。とにかく、この上に、まだ転がっていますから、なんならちょっとごらんなすって。私は、すぐ連絡所へ一走りいってまいります」
 そういって、モグラ軍曹は、そのまま匐《は》うようにして、塹壕の中を向うへいってしまった。
 その後で、カモシカ中尉は、よろよろと立ち上った。そして痛む脚を引き摺《ずり》ながら、塹壕の斜面についた階段を、くるしそうに登っていった。
 トーチカの真下のところには、味方の兵士の屍《しかばね》が、累々《るいるい》と転がっていた。よくまあ、こうも一遍にやられたものだと、感心させられた。そのあたりは、墓場そのものであった。生きている兵士などは、只の一人も見当らなかった。中尉自身が生命をとりとめたことは奇蹟としか思えない。
 中尉は、溜息《ためいき》をつきながら、屍のうえを匐っていった。モグラ下士のいったロケット爆弾を一眼見たいと思ったか
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