も完備していたし、地上及び地下における火器の照準や発射を司《つかさど》る操縦装置も、ここに集まっていた。通風機、食糧庫、弾薬庫も、その真下に、相当広い面積を占めていた。だから、万一、地上が悉《ことごと》く敵の手におちようとも、この地下本営一帯は、大要塞として独立し、侵入軍との間に、火の出るような攻防戦が出来ることは勿論《もちろん》、長期の籠城《ろうじょう》にも耐え、本国のレッド宮殿との連絡も取れ、ワシリンリン大帝とも電話で話ができるように構築されてあった。その昔のマジノ要塞にしても、ジークフリード要塞にしても、このアカグマ地下本営にくらべると、玩具《がんぐ》のようなものだった。
スターベア大総督のかけている椅子の前には、映画館の飾窓《かざりまど》にスチール写真が縦横に三十枚も四十枚も貼りつけてあるように、さまざまな写真が貼り出してあった。
いや、それは只《ただ》の写真ではなかった。どの写真も、しきりに動いていた。多くは風景のようなものがうつっていたが、部屋の中の写真もあった。いずれも皆、映画のように動いていた。
映画ではない、テレビジョンである!
地上と地下とを問わず、戦場と味方の陣営とを問わず、重要な地点において現在どんな事件が起っているかは、すべてこのテレビジョンによって明かにされていた。
中には戦場を疾駆《しっく》する戦車の中から、外をうつしているのもあって、ときどき、スクリーンが、ぱっと赤くなって、何にも見えなくなることがあったが、それは、そのテレビジョン送影機を積んだ戦車が、敵の爆弾か砲弾にやっつけられて、テレビジョンの機械もろとも、粉砕してしまうためだった。
赤外線を利用しているので、テレビジョンのスクリーンを通じて、夜の戦場が、昼間とまったく違わないほど明るく見えていた。
そのテレビジョンは、同時に、無線電話装置も持っていて、スターベア大総督は、スクリーンの上の人物と話をすることも出来るのであった。
いま大総督は、スクリーンにうつったZ軍司令官と、重大な会話をとりかわしている。
「なんじゃ、なんじゃ、なんじゃ」
と大総督の機嫌は、はなはだ斜めであった。
「はあ、はあ、はあ」
Z軍団司令官は、ただもう恐れ入っている。
「貴官を頼みにしていたばかりに、作戦計画は根柢《こんてい》から、ひっくりかえった。第一岬要塞が奪還できなければ、貴官は当然死刑だ。どうするつもりじゃ」
「はあ、もう一戦、やってみます。が、なにしろ、敵は何国の軍隊ともしれず、それに中々|手剛《てごわ》いのであります」
「あの、骸骨の旗印からして、何国軍だか、見当がつかないのか」
「はあ、骸骨軍という軍隊は、いかなる軍事年鑑にも出ていませんので……」
「そりゃ分っとる。しかし、何かの節から、何処《どこ》の軍隊ぐらいの推定はつくであろうが……」
「はあ」
と、スクリーンのうえのZ軍団司令官は、女のように、もじもじと身体をくねらせていたがやがて大決心をしたという顔付になって、
「大総督閣下。では、小官から一つのお願いをいたします」
「願い? 誰が今、貴官の願いなどを、聞いてやろうといったか」
「いえ、いえ。閣下のおたずねの件を、小官のお願いの形式によって、申し述べます。でないと、万一、間違った意見を述べましたため、銃殺にあいましては、小官は迷惑をいたしますので……」
「ふん、小心な奴じゃ。じゃあ、よろしい。貴官の希望するところを申し述べてみろ」
「はい、ありがとうございます」
と、司令官は、うれしそうに、スクリーンの中から、ぴょこんとお辞儀《じぎ》をして、
「では、早速申上げます。小官のお願いの件は、こういうことでございます。どうか、閣下の御命令によりまして、キンギン国の女大使ゴールド女史の身辺を御探偵ねがいたいのであります」
「なに、ゴールド大使の身辺を探れというのか。それはまた、妙なことをいい出したものじゃ」
と、大総督は、太い髭《ひげ》を左右へ引張って、首をふったが、
「よろしい、その願いは聞き届けた。早速しらべさせて貴官にも報告しよう。もう、下ってよろしい」
スイッチは切られ、司令官の姿は、スクリーンから消えた。
とたんに、別のスイッチが入れられ、秘密警察隊の司令官ハヤブサに、ゴールド大使の身辺調査の命令が与えられた。
「ああ閣下。ゴールド大使の身辺は、只今、隊員をして監視中でございます。なにしろ、この前のお叱りもありましたので、あれから直《す》ぐ、ゴールド大使に、わが腕利《うでき》きの憲兵をつけてこざいます」
「そうか、それは出来が悪くないぞ。では、すぐ報告ができるだろうな」
「はい、それは勿論、出来ます。では、直ちに、かの憲兵の持っている携帯テレビジョンからの電流を、閣下の方へ切りかえます」
「そうしてくれ。早くやる
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