れ十四五人の頭数になった。いずれも、その全身が蛍《ほたる》のような光を放っていて、気味がわるくてならない。
 一等はじめに出てきた怪人が、どうやら、この一隊の怪物の隊長らしく、しきりに青く光る腕をうごかして、なにやら命令をつたえているらしい。が、なにを命令しているものやら、さっぱり分らない。その隊長らしい怪人だけは、胸のところの三本の光の縞《しま》が、ネオン灯のように、赤く光っていた。
 カモシカ中尉は、塹壕の斜面に、伏せをしたまま化石のようになっていたが、やっと気をとりなおし、やはり傍に伏せをしているモグラ一等下士を、防毒衣のうえから叩いて、(おい、こっちへ寄ってこい)
 と、合図をした。
 モグラ下士は、その合図を諒解《りょうかい》して、相手の怪人たちに知られないように、おそるおそる、中尉の方へ匐《は》っていった。
「なに、御用ですか、中尉どの」
 と、防毒面に装置されているマイクによって低い声でいった。
「おう、モグラ下士。もっと低い声で喋《しゃべ》れ。相手は、おれたちを死骸だと思っているんだぞ。生きていると知られりゃ、ことだ。なるべく小さい声でしろ」
 カモシカ中尉は、極度に、注意ぶかく、部下をたしなめた。
「は、はい」
「ふん、まだ声が大きいぞ」と、中尉は、下士の手をぎゅうと引張った。
「中尉どの。わしのマイクの調整釦《ちょうせいボタン》が、変になっていて、これ以上、小さい声が出ないのであります。もう喋るのを、よして、退却しましょうか」
「こら、にげちゃいかん。もっと、こっちへよれ」
 と、カモシカ中尉は、モグラ下士を、一層傍へひきよせ、
「おい、見たか、あれを」
「見ました。あの潜水夫の幽霊隊みたいな奴どものことでしょう」
「彼奴《きゃつ》らは、一体、何者じゃろうか」
「ゆ、幽霊じゃないのですかなあ。第一岬の沖合で、外国船がたくさん沈没していますが、その船員どもの幽的《ゆうてき》ではないでしょうか」
「ばかなことをいうな。彼奴らは、ちゃんとしっかりした足どりで歩いている。幽霊なら、もっと、ゆっくり歩くはずだ」
「そうです、そうです。自分もいつか、芝居で見ました」
「くだらんことをいうな。ところで、われわれが今見ている敵情を、至急司令部へ報告しなければならないが、附近に、通信兵はいないか」
「見えませんねえ。警笛を鳴らしてみましょうか」
「ばかな。そんなことをすれば、あの怪物どもに、すぐ感付かれてしまう。仕方がない、お前の携帯用無電機を使って、秘密電話を司令部へ打て」
「はあ、司令部へ打電しますか。救援隊は、どのくらい、こっちへ急派してもらえばいいでしょうか」
「救援部隊などを請求しろとは、おれはまだいわんぞ。要するにわれわれが今見ている敵情をなるべく詳しく、要領よく、至急司令部へ打電しろ」
「はあ。わかりました」
 そこで、モグラ下士は、腹匐《はらば》ったまま、背中にとりつけてある小さい無電機のスイッチを入れた。すると、彼の耳朶《みみたぶ》のうしろに貼りつけてある顕微検音器が、低くぶーんと呻りだして、秘密電波が、彼の無電機から流れだしたことを知らせた。
 モグラ下士は、指先をこまかく働かせながら、しきりに司令部を呼びつづけた。


   至急報告

“こっちは、軍団司令部だ”
 合言葉の交換がすむと、司令部の通信兵は、名乗りをあげた。
“おう、しめた。こっちは、カモシカ中尉どのからの速達報告だ”
“なに、速達?”
“いや、ちがった。至急報告だ。そっちは、たしかに軍団司令部にちがいないだろうね。お前のところは、敵のスパイ本部じゃないのか。商売上、Z軍団司令部らしい顔をして、返事をしているんだったら、後でわしは叱られて迷惑するから、今のうちに、スパイならスパイと、名乗ってくれ……”
“なんだと。下《さが》れ”
“なにィ。下れとは、何か”
 横で、全身をこわばらせて、怪物隊を凝視していたカモシカ中尉は、おどろいた。
「おいおい、モグラ下士。司令部は、まだ出ないのか。生死の境に、秘密無電を打って喧嘩《けんか》をしちゃいかんじゃないか」
「はい。そうでありましたナ。どうやら司令部の有名な怒り上戸《じょうご》のアカザル通信兵が出ているようです。司令部であることに、まちがいはないようです。なにしろ、こういう重大報告は、念には念を入れないと、いけませんからなあ」
「そうと決まったら、はやく打電しろ。ぐずぐずしていると、敵の怪物隊はこっちへ攻めてくるかもしれないぞ」
「はい、はい。――おや、司令部が引込んでしまった。どうも気の短い奴だ。あのアカザル通信兵という男は」
 モグラ下士は、また、きいきいと呼び出し信号を出した。
“おい、軍団司令部か。こっちへ挨拶もしないで、引込んじまっちゃ、困るじゃないか。手間どっているうちに、こっちが敵
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