ベアは、太い髭《ひげ》をふるわせ、
「つまり、誰か、このわしを蹴落《けおと》そうという不逞《ふてい》の部下が居て、わしに相談もしないで敵を攻めているのではなかろうか。そいつは、恐るべき梟雄《きょうゆう》である!」
「さあ……」
 と、ハヤブサ司令官は、小首をかしげた。


   苦しき報告

「さあとは、何じゃ。即座に返答ができないとは、お前の職分に恥じよ」
 大総督は、ハヤブサを面罵《めんば》した。
「まことに重々恐れ入りますが、これ以上、私は、何も申上げられません。私は、免官にしていただきたいと思います」
「いや、それは許さん。お前は、あくまでこの問題を解決せよ。解決しない限り、お前はどこまでも、わしがこき使うぞ」
「困りましたな」
 と、ハヤブサ司令官は、当惑の色をうかべたが、やがて、思い切ったという風に、
「では、やむを得ません。思い切りまして、一つだけ、申上げたいことがあります。しかし、大総督閣下は、とても私の言葉を、お信じにならないと思います」
「なんじゃ。いいたいことがあるというか。それみろ、お前は知っているのじゃ。知っていながらわしにいわないのじゃ。なんでもいい、わしはお前を信ずる。早くそれをいってみよ」
 大総督は、ハヤブサを促した。しかし彼は、なおも暫時《ざんじ》、沈思しているようであったが、ついに決心の色をうかべ、
「では、申上げます。これから私の申しますことは、とても御信用にならないと思いますが、申上げねばなりません。じつは、トマト姫さまのことでございますが……」
「何、トマト姫。姫がどうしたというのじゃ」
 トマト姫は、今年九歳になる。スターベア大総督の一人娘で、大総督は、トマト姫を目の中に入れても痛くないほど、可愛《かわい》がっていられる。そのトマト姫のことが、とつぜん秘密警察隊の司令官ハヤブサの口から出てきたので、大総督の愕《おどろ》きは大きかった。
「姫が、どうしたというのじゃ。早く、それをいえ!」
「は、はい」
 ハヤブサ司令官は、自分の頭を左右にふりながら、
「どうも、申上げにくいことでございますが、トマト姫さまこそ、まことに奇々怪々なる御力を持たれたお姫さまのように、存じ上げます。はい」
「なんじゃ、奇々怪々? あっはっはっはっ」
 大総督は、からからと笑いだした。
「冗談にも程がある。わしの娘をとらえて、奇々怪々とは、なにごと
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