。彼は、これまでのいくつかの戦争において、いつも敗戦の原因となった漸進《ぜんしん》主義や打診主義を排し、全国軍の重攻撃兵器を一つに集めて、猛烈なる大攻撃にうって出る主義だった。戦争に勝つこと以外のことを考えてはならないと、彼は思っていた。いささかでも、敗れる恐れのある戦争は、決してしない主義だった。敵が十の力を出すときには、こっちは少くとも五十の力を向けて、絶対的に圧倒するのだ。そのために百の力を持っていながらも、後の機会のことを思って、九十の力を貯《たくわ》え、十の力を出すようなやり方を極端に排撃するのだ。百の力があるものなら、百の力のすべてを一度に用いるのであった。そして一度で、敵を再び立つことの出来ないほどに蹂躙《じゅうりん》してしまう。そうする方が、味方の損害は、極めて微々たる程度に喰い留ることが出来る。戦争を行って、しかも戦後に兵力のうえで依然として世界を睨みつけるためには、この戦法に勝るものはない。
 そのような信念の下に、アルゴン大将は、凡《およ》そ太青洋を進攻できる軍団と兵器との全部を動員し、それを集結させ、そしてアカグマ国のイネ州に向けることにした。
 大空には、飛行軍団を六|箇《こ》、海上には、一千三百隻の艦艇を、更に水中には、キンギン国とっておきの快速潜水艦隊を配置し、一挙にアカグマ国をぶっ壊す作戦であった。文字どおり、空中、海上、海底の三方よりの立体戦であった。
「全軍、出動用意!」
 アルゴン大将は、官邸のマイクを通じ、すべての根拠地に対して、号令した。
 やがて、用意よしの返事が大将のところへきた。そこで大将は、
「全軍、進め!」
 と、出発を命じた。それこそ、キンギン国建国以来の歴史的な瞬間だった。なぜなれば、そのようなキンギン国の戦闘部隊の豪華さは、このときを境として、再び見られなかったからである。
 全軍は、直線的に、真西へ向けて、進発した。それは丁度《ちょうど》洋上に夕闇が下りたばかりの頃だった。太青洋踏破は、正二日半で完了する予定だった。
 アルゴン大将の、特に信頼をおいていたのは、二百隻から成る快速潜水艦隊であった。大将は、艦隊最高司令官スイギン提督から刻々報告をこっちへ送らせていた。
「只今、二十時。わが潜水艦隊は、○○地区を潜航中。全艦隊、異常なし」
 そういう報告が入ると、アルゴン大尉は、ふうッと、鯨のような息をついて、
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