憤慨して、
「さあ、それではゴールド大使。キンギン国内における軍隊の動きについて、貴下の集められた情勢を、われわれに詳しく話していただきたい」
「はい、では申上げましょう。まずわが密偵の一人は……」
 と、ゴールド女史は、長々しい報告を喋りはじめた。
 元帥は、チューインガムを、くちゃくちゃ噛《か》みつつ、女史の報告に耳を傾けていたが、それから間もなく、彼はどうしたものか、うんといって、両手で虚空をつかむと、その場に悶絶《もんぜつ》してしまった。
 不思議な死に様《よう》だった!
 元帥の心臓は、ぱたりと停《とま》り、身体は、どんどん冷えていった。
 その頃、この室内には、さらに奇怪なことが起った。それは、元帥が、さっきから目の前に睨んでいたたくさんの将軍や参謀たちの作り首が、まるでうしろから槌《つち》で殴《なぐ》りつけたように、階段の上で、ごとごとばたんばたんと、しきりに前に倒れ、そして転がるのであった。そして五分とたたない間に、只一つ、リウサン参謀の作り首だけが、きちんと立って、残っているだけで、他の作り首は、悉く倒れてしまったではないか。
 一体どうしたのであろう。
 警鈴《ベル》が、じゃんじゃん鳴りだしたのは、それから更に、五分ほど経《へ》て後のことだった。ゴールド女史のラジオがぷつんと切れた。
 暫らくして扉が、荒々しく開かれ、そこへ飛びこんで来たのは数人の陸軍将校だった。
「あっ、たいへん。長官が死んでしまわれた」
「おお、やっぱり。いけなかったか」
 将校たちは、顔色をかえて、老元帥の死体を取り巻いた。
「ひどいことをやりやがったな。かねて、こういう危険があるかもしれないと思い、余《よ》は、注意を願うよう、上申しておいたのに」
「私も、たびたび長官に、申上げたんですがなあ」
 そういって、舌打ちをしたのは、長官の副官だった。
「もう、とりかえしがつかない。このうえは、弔合戦《とむらいがっせん》あるばかりだ。ゴールド大使には、しばらく秘密にして置け」
 暗涙をのんで、そういったのは、中で一番肩章の立派なアルゴン大将だった。彼は、数分前新任されたばかりの戦争次官だった。
「やっぱり、あれにやられたんですかなあ」
 と、別の将校が、次官を見上げながら、いった。
「そうだ。あれに違いない。つまり、アカグマ国軍の電波隊が、ゴールド女史の秘密無電を利用し、女史の電
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