すると、壁が、どしんと、下に落ちた。向うの部屋が、見とおしになった。
向うの部屋は、まるで幅の広い階段に、人間の首を植たように、二十近い首が並んで、こっちを向いていた。そして、一せいに、目をぱちぱちとやった。それは、元帥に対する敬礼であったのだ。
「やあ」
と、元帥は、ゆったりした言葉で、答礼をした。
「では、諸君。会議をはじめる」
と、元帥は、開会を宣した。階段に生えたたくさんの首と会議をはじめるなんて、変な光景であった。
そのたくさんの首は、いずれも薄眼《うすめ》をひらいて、元帥の言葉を、しずかに待ちうけているようであった。
そのとき、突然、また例の副官の声が、聞えた。
「長官に申上げます。只今、第四参謀が盲腸炎で入院し、直ちに開腹手術をいたしますそうです」
「なに、第四参謀が……」
「そうであります。それで、第四参謀は会議を失礼したいと、申して参りましたがどういたしましょう」
「盲腸炎なら、仕方がない。会議から退いてよろしいが、彼に、よくいって置け、盲腸などは、子供のとき取って置くものじゃ。つけて置くから、折角の重要会議に役に立たんじゃないかといっておけ」
「はい。そう申します」
「第四参謀は、下ってよろしい」
長官ラヂウム元帥が、そういうと、がたんという音がして階段に生えていた首の一つが、その場に前に倒れた。見るとその首は、本物の首ではなく、作り首だった。それは首からうえの作り物であった。そして、一種の電話機であったのだ。
つまり首のその本人は、元帥の前にいないのである。遠くにいるのだった。ただ、彼を代表する電話機だけが、首の形をして、ラヂウム元帥の前に並んでいたのだ。昔は、会議をするときには、方々から参謀が参集したものである。今は、勝手な場所にいて、ただ、自分が背負っている携帯無電機のスイッチを入れると、今元帥の前の作り首が、むっくり起き上る。これが(はい、電話で、お話を聞いていますよ)という信号なのである。
ラヂウム元帥は、そういう作り首に向って、会議を宣言したのだ。
「……只今、イネ州駐在のゴールド大使より、非常警報が届いた。アカグマ国の軍隊は、続々集結している。また予備兵たちへは、動員令が発せられたそうである。彼等は、はりきって、すでに発砲している。第一岬附近は、戦場のようだ。国軍はしきりに東方へ向って、移動を開始し、イネ州の東海
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