の砲弾で粉砕されちまや、貴重にして重大なる戦況報告が司令部へ届かないことになるじゃないか。そうなると、わが軍の損害は急激に――なに、早く本文を喋れというのか。さっきから、喋ろうと思うと、意地わるく、貴様の方で、邪魔をするんだ。いいか、さあ喋るぞ”
 とモグラ下士は、大きな咳《せき》ばらいをして、“挺進《せきていしん》Z百十八歩兵中隊報告! われは、本地点において――本地点というのは、一体どこなんだか、こっちには、よくわからないから、そっちで方向探知してくれ、いいか――右地点において、敵の怪物部隊に対峙《たいじ》して奮戦中なり。敵の怪物部隊の兵力は約一千十五名なり……”
 と、敵一千名だけ、さば[#「さば」に傍点]を読んで、
“――その怪物は、いずれも、重圧潜水服を着装せるところより推定するにいずれも海軍部隊なるものの如きも、ここに不可解なることは、彼等怪物はロケット爆弾の中にひそみて飛来したものであって、その結果より見れば、恰《あたか》も空中に海がありて、そこより飛来したものと推定されるも、なぜ空中に海があるのか、わしにも分らない、中隊を率いるカモシカ中尉にも、おそらく分っちゃいないだろう……”
 カモシカ中尉は、おどろいて、また傍から、モグラ下士の横腹をついた。
「おい、報告に、議論は不用だ。見て明かな事実だけを、簡潔に打電するのだ。――怪物どもが、こっちの方を透かして見ているぞ。早く無電を切り上げないと、危険だ」
「はい、わかりました」
 モグラ下士は、また無電報告をはじめた。
“さっきの続きだ。いいかね。――敵はいずれも全身から蛍烏賊《ほたるいか》の如き青白き燐光《りんこう》を放つ。わしは幽霊かと見ちがえて、カモシカ中尉から叱られた。敵は、その怪奇なる身体をうごかしてカモシカ中尉と余《よ》モグラ一等下士の死守する陣地に向い、いま果敢なる突撃を試みようとしている。この報告は、恐らくわが陣地よりの最後の報告となるべく、われらの壮烈なる戦死は数分のちに実現せん。金鷲勲章《きんしゅうくんしょう》の価値ありと認定せらるるにおいては、戦死前に、電信をもってお知らせを乞《こ》う。スターベア大総督に、よろしくいってくれ。報告、おわり。どうだ、こっちの喋ったことは、分ったか”
“……”
 司令部の通信兵からは、何の応答もなかった。モグラ下士が、気がついてみると、いつの間にやら、
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