とをすれば、あの怪物どもに、すぐ感付かれてしまう。仕方がない、お前の携帯用無電機を使って、秘密電話を司令部へ打て」
「はあ、司令部へ打電しますか。救援隊は、どのくらい、こっちへ急派してもらえばいいでしょうか」
「救援部隊などを請求しろとは、おれはまだいわんぞ。要するにわれわれが今見ている敵情をなるべく詳しく、要領よく、至急司令部へ打電しろ」
「はあ。わかりました」
 そこで、モグラ下士は、腹匐《はらば》ったまま、背中にとりつけてある小さい無電機のスイッチを入れた。すると、彼の耳朶《みみたぶ》のうしろに貼りつけてある顕微検音器が、低くぶーんと呻りだして、秘密電波が、彼の無電機から流れだしたことを知らせた。
 モグラ下士は、指先をこまかく働かせながら、しきりに司令部を呼びつづけた。


   至急報告

“こっちは、軍団司令部だ”
 合言葉の交換がすむと、司令部の通信兵は、名乗りをあげた。
“おう、しめた。こっちは、カモシカ中尉どのからの速達報告だ”
“なに、速達?”
“いや、ちがった。至急報告だ。そっちは、たしかに軍団司令部にちがいないだろうね。お前のところは、敵のスパイ本部じゃないのか。商売上、Z軍団司令部らしい顔をして、返事をしているんだったら、後でわしは叱られて迷惑するから、今のうちに、スパイならスパイと、名乗ってくれ……”
“なんだと。下《さが》れ”
“なにィ。下れとは、何か”
 横で、全身をこわばらせて、怪物隊を凝視していたカモシカ中尉は、おどろいた。
「おいおい、モグラ下士。司令部は、まだ出ないのか。生死の境に、秘密無電を打って喧嘩《けんか》をしちゃいかんじゃないか」
「はい。そうでありましたナ。どうやら司令部の有名な怒り上戸《じょうご》のアカザル通信兵が出ているようです。司令部であることに、まちがいはないようです。なにしろ、こういう重大報告は、念には念を入れないと、いけませんからなあ」
「そうと決まったら、はやく打電しろ。ぐずぐずしていると、敵の怪物隊はこっちへ攻めてくるかもしれないぞ」
「はい、はい。――おや、司令部が引込んでしまった。どうも気の短い奴だ。あのアカザル通信兵という男は」
 モグラ下士は、また、きいきいと呼び出し信号を出した。
“おい、軍団司令部か。こっちへ挨拶もしないで、引込んじまっちゃ、困るじゃないか。手間どっているうちに、こっちが敵
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