、トマト姫。お前はいい子だから、あっちへいって、レビュウを見ていらっしゃい。お父さんは、今、ハヤブサ司令官と大事なご相談をしているときだから、あっちへいらっしゃい」
「いいのよ、お父さま。あたし、もう黙っているからいいでしょう。猫のお話が出ても、鼠のお話が出ても、なんともいいませんわ」
 トマト姫は、そういいながら、大総督の膝の間へ小さなお尻を入れ、絨毯《じゅうたん》のうえへ座りこんでしまった。
「どうも、困った奴じゃ」
 と、大総督はいったが、眼に入れても痛くないほど可愛がっているトマト姫のことだから、そのうえ叱りはしなかった。彼は、司令官の方をむいて、
「おい、ハヤブサ。お前も、ちと常識のある話をしてくれ。海の中に、猫だの鼠だのがいるような話をしては、娘に笑われるではないか」
 といえば、司令官は、眼を白黒して、
「いや、これはうっかりしておりました。何分にも、一刻も早くお知らせしなければならないと思い、それがため、つい周章《あわ》てましたようなわけで……」と弁解して「さて、閣下。今申した怪信号の事件について、閣下はいかなるお考えをお持ちでございましょうか」
 大総督は、しばらく眼を閉じて考えていたが、やがて、ぽんと膝をうち、司令官ハヤブサの耳に口をよせると、
「おい、それはキンギン国の仕業《しわざ》にちがいないと思うぞ。お前は、直《すぐ》に秘密警察隊を動員してキンギン国の大使ゴールド女史をはじめ、向うの要人の身辺を警戒しろ」
「はい。かしこまりました」
「わしは、すぐさま戦争大臣に命令を発して、問題の第一岬要塞の南方十キロの洋上を中心として、附近一帯を警備させるから」
「ははっ、それは結構でございます」
「わかったら、早く行け」
「はっ」
「ちょっとお待ち、ハヤブサ司令官」
 そういったのは、トマト姫だった。司令官は、立ち上りかけたところを、トマト姫によびとめられ、またその場に跼《かが》んだ。
「はい、なにごとでございますか、お姫さま」
「あのう、ゴールド大使の左の眼が、義眼だということを、あなたは知っているの」
 トマト姫は、とつぜん、意外なることをいいだした。
「えっ、それは初耳です。そうでございましたか、あのうつくしい女大使ゴールド女史の左の眼が義眼とは、今まですこしも気がつきませんでした。ははあ、女というものは油断が……」
 といいかけて、司令官は気が
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