ようとは、余の予期せざりしところである」
 と博士は、折から空襲実況中継放送中のBBCのマイクを通じて、訪問の初挨拶をしたのであった。
 接伴《せっぱん》委員長のカーボン卿《きょう》は、金博士が、あまりにも空爆下《くうばくか》に無神経でありすぎるのに愕《おどろ》き、周章《あわ》てて持薬《じやく》のジキタリスの丸薬《がんやく》をおのが口中《こうちゅう》に放りこむと、金博士を桟橋《さんばし》の上に積んだ偽装火薬樽《ぎそうかやくだる》のかげに引張りこんだ。
「ああカーボン卿、ドイツ空軍のために、こんなに行《ゆ》き亘《わた》って爆撃されたのでは、借間《しゃくま》が高くなって、さぞかし市民はたいへんであろう」
「おお金博士。仰有《おっしゃ》るとおりです。借間の払底《ふってい》をはじめ、そのほかわれわれイギリス国民を困らせることが実に夥《おびただ》しいのです。このときわれわれは、はるばる東洋から博士を迎え得て、千万トンのジャガ芋《いも》を得たような気がいたしまする」
「ジャガ芋とは失礼なことをいう、この玉蜀黍《とうもろこし》め」
 と、博士は中国語でいって、
「この空爆の惨害《さんがい》を、余にど
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