へ連れていかれたり。
「実は、発明者の田方堂十郎氏を、ご住居にお訪ねしたのですが、ご不在でして、結局、代理人たる先生にお願いするのが、最善の得策と考えまして、お願いに上りましたような始末で……」
 と、金巻氏がいえば、後頭氏もこれにかぶせて、
「先生のお力を持ちまして、一時間でも早く、あの権利を譲渡していただきたいのです。先生へは充分御礼をいたします。成功報酬は、千円でも二千円でも出します」
 余は、内心愕いた。とんでもない商売が、世の中には転がっているものだ。弁理士商売は、これは悪くないぞ、もしこれが夢でなければ……。
「ちょっとお待ち下さい」
 と、金巻氏が、後頭氏を抑え、
「その前に、あの特許で作った実物の腕を見せて頂こうじゃありませんか。それを拝見した上でのことに……」
「いや、そんなことを、言っている場合じゃありませんよ。ぐずぐずしていると、他所へ取られてしまう。もし外国人などに買われてしまったら、どうしますか。国防上、由々しき問題だ。すぐ決めましょう」
「しかし。三本目の腕をつける場所が、ちょっと心配になるのでしてナ、背嚢を背負うのに邪魔になったり、駈け足に邪魔になったりするのでは困るですからなあ」
 両氏の話を聞いていると、あの『多腕人間方式』を兵器に利用する計画のようであった。そこで余は、両氏に説明を求めた。
「……ご他言は絶対なさらないように願いますが、実は、あれを作ったうえで新兵器に採用願う計画なのです。要するに、三本目の腕を、兵隊さんに取付けるのです。兵隊さんの腕が、三本にふえると、とても強くなりますよ。たとえば、射撃をする場合を例にとりますとね、一本の手は銃身を先の方で握り、他の一本の手は、遊底をうごかし、そしてもう一本の特許の腕は引金を引く。そうなると、小銃の射撃速度は、たいへん速くなります。また、白兵戦の場合でもそうです。敵と渡りあうとき、敵の二本腕に対して、こっちの二本の腕で五分五分の対抗ができます。そうして、敵の二本腕の活用を阻止しておき、こっちは特許の三本目の腕を、そろそろ繰り出して軍刀を引っこぬき、ぶすりと敵の背中を刺して倒します。そうなれば、三本腕の兵の方が、絶対優勢です。そうじゃありませんか」
「ああ、なるほどなるほど」
 それを聞くと、今度は余の方が、昂奮してきた。そうだ、始めから、そんな気がしていたが、 この『多腕人間方式
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