二項、第三項を設け、腕の取り付け個所につき例の第一案乃至第三案を並べたものである。これで金城鉄壁である。
余は、もう一度読みかえすと、それをタイプライター学校へ持って行って、至急叩いてくれるように頼み、その足で、製図商会へいって、三本腕の製図を依頼して来た。
3
×月×日 晴後曇。
本日『多腕人間方式』の出願書類を麹町三年町の特許局出願課窓口へ持参し、受付けてもらった。これで、あとは、審査官の出様を待つばかりである。
今、特許局は、人手不足であるから、審査の済むのは、明年の春ごろであろう。
×月×日 雪。
午前十時、田村町事務所へ出勤。
錠をあけて、部屋に入る。
給仕高木は、ついに辞職した。母親が病気だといっていたが、これは嘘で、本当は軍需工場へ通うことになったらしい。その工場には、日比谷公園のよりも、もっといいブランコがあるのであろう。
そこで、このごろは、余ひとりで出勤し、余ひとりで掃除もすれば、茶も沸かす。結局この方が、気楽でよろしい。
外套を脱ぎながら、ふと気がつくと、入口に封筒がおちている。特許局からの通知状だと、一目で分った。
上を見ると、鉛筆で、『代印デトッテオキマシタ、ビル管理人』と書いてあった。
一体何事だろうと、余は、急いで封を切った。すると、意外にも、例の『多腕人間方式』について、審査官からの通知書が入っていたではないか。出願してから、まだ三週間にもならないのに、この通知に接するとは、異数のことである。余は、大いによろこんで、その通知書を読んだ。ところが、これは、出願の拒絶理由通知書であったのである。
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『本願ハ左記理由ニ仍リ拒絶スベキモノト認ム。意見アラバ来ル×月×日迄ニ意見書ヲ提出スベシ』
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と、あっさり殺し文句があって『左記』のところには、
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『本願ノ要旨ハ、義手ヲ人体ニ添架スルニ在ルモノト認ム。然ルニ本願出願以前、帝国領土内ニ於テ、義手或ハ義足ガ公然製造使用セラレタルコトハ、例エバ明治三十九年東京市下谷区御徒町仁愛堂発行ノ「義手義足型録」ニ依リテ公知ノ事実ナリ、仍リテ本願ハ特許法第一条ニ該当セザルモノト認ム』
[#ここで字下げ終わり]
と、拒絶理由が述べてあった。
これで見ると、審査官は、三本腕の要旨を、義手義足の願
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