よいよおどろいたが、もっとしらべをつづけた。
青二の目に見える二つの玉は、どうやらこの猫の目玉であるらしく思われる。
それから新発見があった。見えない猫の二本の前足が、細いゴムのバンドで結《むす》んであることだった。そのゴムのバンドは、草むらの中にあって、よくよく見ないと、青二の目には、はいらない場所であった。
こわいよりも、今や青二は、好奇心にわき立った。
青二は、そのあやしい猫のような動物を抱きあげた。たしかに猫ぐらいの重さが感じられた。青二は、それをしっかりと抱いて、道へ出た。そして、自分の家の方へ歩き出した。
その動物は、おとなしかった。もうなきはしなかった。青二のふところへ、もぐりこむようにして、からだをまげた。動物の温《あたた》か味が青二の方へつたわって来た。
動物はねむり始めたらしい。
「いったいこれはなにかしらん。猫のたましいにしては、すこし変だし……」
青二には、このあやしい動物の正体《しょうたい》を、はっきりいいあてることができなかった。
やがて青二は、家にかえりついた。
青二は「ただ今」といって、すぐ二階へあがった。青二は、途中で拾ってきたあやしい猫みたいな動物のことを、母親に話をしようかと思ったが、いやいやそうでない、そんなあやしいものを拾って来たことを、お母さんが知ったら、どんなにおどろくかしれない。そして早くそのようなものは捨てておしまいといわれるだろう。それではせっかくこわい目をして拾ってきたのに、つまらない事になってしまう。そう思って青二は、その怪しい動物を抱いたまますぐ二階の自分の部屋にあがってしまったのである。
二階へあがったものの、青二は、ちょっと困ってしまった。このあやしい動物をどこへおいたらいいかということだ。そのままおいておけば、きっと出ていってしまうだろう。逃げられたんでは、いやだ。
戸棚《とだな》に入れようか。いや、猫はふすまを破ることなんか平気だから、戸棚では安心ならない。
「青二や。なにをしておいでだい。ご飯ですよ。早くおりていらっしゃい」
はしご段の下から、母親が二階へ声をかけた。
「はーい。今行くよ」
さあ、どうしようかと、青二は困ってしまった。
が、困ったときには、よく名案がうかぶものである。青二は、机のひきだしをひっぱりだして、ひもを探した。赤と青のだんだらの、荷物をくくるひもがあった。それを出すと彼はあやしい動物の後足二本を、そのひもでいっしょにぐるぐるしばってしまった。
こうすれば、このあやしい動物は、前足も後足も二本ずつしばられているんだから、もう歩くことができない。歩くことができなければ、この部屋から、出てゆくこともない。よしよし、これなら大丈夫と、青二はそれがすむと、机の上にそっとおいて、はしご段を下へおりていった。
夕飯のおぜんを、母親とかこんで、いつものように食べた。母親は、放送局にはかわったことがなかったかと聞いた。青二は、なにもかわったことがなく、お父さんは鉛筆を一本くれたと、答えた。
食事がすんだ。
母親が台所の方へいっているひまに、青二は皿の上からたべのこりの魚の骨をそっと掌《てのひら》へうつした。そして急に立って、二階へとんとんとあがっていった。
「青二、お待ちよ、りんごを一つ、あげるから……」
母親が声をかけたが、青二は、
「うん。あとでもらうから、今はいいよ」
と、いいすてて二階へあがった。すぐ机の前へとんでいった。
机の上には、見おぼえのある赤と青とのだんだらのひもと、ゴムのバンドがあった。気味のわるい二つの目玉らしいものも、そこにあった。
「にゃーお。う、う、う」
「これがほしいんだろう。さあ、おたべ」
青二は、魚の骨を、光る目玉の下へおいてやった。すると、かりかりと骨をかむ音がした。骨がくだけて、机の上からすこしもちあがった。そしてそれはやがて線のようにつながって、だんだんと上にあがり、それから横にのびていった。
「き、気持がわるいなあ」
青二は、ぞっとした。魚の骨が、動物の口へはいってくだかれ、それから食道をとおって、胃ぶくろの方へ行くらしい。それが透《す》いてみえるのだった。
「ふーん。たしかにこれは見えない猫だ。透明猫だ。なぜこんなふしぎな動物が生きているんだろうか」
青二は、おそろしくもなったが、またこの見えない猫が貴重なものに思われてきて、膝の上にのせてしきりになでてやった。
そのうちに、二つの目玉が動かなくなった。透明猫は、膝の上でねむりはじめたらしい。しかしそのとき、青二がふしぎに思ったのは、拾ったときはたいへんはっきり見えていた目玉が、今はぼんやりとしか見えないことだった。
おそろしき事件
あくる日、青二はいつものように五時に起きた。
父親は、まだねていた
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